仙台を初めて訪れたのは2001年の5月のことでした。
初めて開催された第1回仙台国際音楽コンクールに参加するためです。
当時まだ25歳。
モスクワ音楽院を卒業して間もない頃でした。
モスクワからパリの予選を通過して仙台へ参りました。
初めて仙台駅のホームに降り立ったときの印象は「寒!」。
それに東京などに比べて人が少なく綺麗な都市だと思いました。
その時はまだ自分が将来この土地で生活するようになるとは思っていませんでした。
幼い頃から北国に憧れていました。
北国の自然には控えめな美しさがあります。
冬を迎えて白い粉雪が舞い始めると、しんしんと静かな時間が流れ出します。
だから北国では、音楽がより深く沁みて感じられるようです。
ロシアでも雪道を歩いてホールに着くと、そこで繰り広げられる色彩豊かな音の世界は癒しと感動とに溢れていました。
この東北・仙台でもやはり音楽が盛んです。
国際コンクールも音楽祭(せんくら)もあります。
今後とも益々音楽がより身近なものとなって、仙台から東北の気運が高まっていくことを願っています。
土田定克(ピアノ)
おしまいに、今回の「せんくら」では、梅田俊明指揮/仙台フィルハーモニー管弦楽団との初共演が楽しみです。
曲はおなじみのロドリゴ「アランフェス協奏曲」。
私は今夏、アメリカ公演(西海岸メンドシーノ音楽祭)でもこの協奏曲を弾いてきました。
もう100回以上の本番を重ねた曲ですが、共演する指揮者やオーケストラによって毎回新しい発見があります。
今回のアランフェス協奏曲では、ドイツ人の親友シュテファン・シュレンパーが2004年に製作した専用アンプ付きのコンチェルト用ギターを使用します。
ギター製作家になる前は、サウンド・エンジニアをしていたというシュレンパーは、電気的ではない自然なサウンドの増幅装置と、それに適したマイクロフォンを内在したギターの開発を進め、この10年ほど私のヨーロッパでの大きな仕事を手伝ってくれています。
彼のギターは増幅に頼らずとも充分に大きな音が出せるのですが、さらにサウンド・ホールの中心にある高感度マイクと弦を止めてあるブリッジの下に埋め込まれた感圧素子の2系統からの信号をアンプ内蔵のスピーカーに送り込んで鳴らします。
これによって、オーケストラとの対話にも充分に耐えうる大きな音のギターを実現しました。
ロドリーゴのアランフェスは、
10月5日(土) 19:45~20:45 イズミティ21/大ホール です。
また、ガラ・コンサートでは愛弟子の鈴木大介君と、10月6日(日) 14:45~15:45 イズミティ21/大ホールで共演します。
こちらは映画音楽、ニーノ・ロータとモリコーネをお届けします。
3日にわたって、文章ではとても説明出来ない3つの楽器の音色を説明してきましたが、
仙台の皆さん、是非その耳で確かめにきて下さいね。
「せんくら 2013」でお会いしましょう!
福田進一(ギター)
さて、もうひとつ私の演奏するギターは「19世紀ギター」と呼ばれている、1800年~1860年の間に使用された小ぶりのギターです。
この楽器は「ルネ・フランソワ・ラコート」というフランスの名工が1840年頃に製作したものです。
この時代のギターは、前回も書きましたが現代のギターの元祖アントニオ・デ・トーレスが多彩な音色を出せるように開発するより遥か前の楽器で、多彩な装飾が施されていますが、内部は非常に単純な構造をしています。
表面の板を振動させる力木は、数本しかありません。
ほとんど、本来の木が持っている自然な力で鳴っているような楽器です。
そこには、現代人のロマンチックに加工された音ではなく、古典期の人間が持っていた健康的かつデリケートな、まさに心の琴線に触れる温かい音を出す楽器なのです。
私がこの楽器を手に入れた1991年の段階では、世界中に数人しか真剣に取り組むギタリストはいませんでした。
22年の月日が流れ、古楽の研究も進み、聴衆の理解も深まり、この「古くて新しい音」の出る楽器のファンも増えているのは喜ばしいことです。
今回のプログラムは19世紀を代表するギター奏者・作曲家のフェルナンド・ソルを特集します。
スペインのバルセロナに生まれ、様々な音楽をモンセラート修道院で学んだソルは、19才でパリに出て最初はバレエ音楽の作曲家として名を成します。
後に、ギター教本や「魔笛の変奏曲」をはじめとする数々の名曲を生み出しますが、ロンドンやモスクワなど、旅の連続のその人生は決して楽ではありませんでした。
ソルが愛用した名器「ラコート」を使ってのコンサートは10月6日(日) 10:45~11:30
日立システムズホール仙台(青年文化センター)/交流ホール) です。
魔笛、グラン・ソロなどの名曲とある貴婦人の死を悼んで書かれた
秘曲「悲歌風幻想曲」などを聴いて頂きます。
福田進一(ギター)
仙台の皆さん、お久しぶりです!
ギターの福田進一です。
今年も「せんくら」の季節がやってきました。
思えば、第1回せんくら、その最初の演奏会が私のソロ・リサイタルでした。
あれから8年、震災の年だけは参加出来ませんでしたが、毎年このフェスティバルに常連のように出演させて頂けること、今や私にとって大きな楽しみと喜びとなっています。
今年はどんなプログラムを弾こうか、どんな音楽家と共演しようか、昨年のあの熱心なお客様にまたお会いできるだろうか…
いつも「せんくら」が始まる前に様々な期待感が胸をよぎります。
さて、今年は3種類の異なるギターを使い分けての参加となります。
まず、
バッハ・リサイタル(10月5日(土) 16:15~17:15
日立システムズホール仙台(青年文化センター)/コンサートホール)
では、1947年に製作されたドイツの名器「へルマン・ハウザー」を
使用し、オール・バッハのプログラムを聴いて頂きます。
えっ?ギターなのにドイツ製が良いの?と思われるでしょうね…
そうなんです。
現在、世界的に最も評価も高く、値段も高いギターはドイツの「ハウザー1世」なんです。
ほんの数年前にアメリカのオークションで落札された1951年のハウザー1世は、軽く一戸建てが買えるほどの史上最高額がつきました。
この名器ハウザーの誕生にはギターの巨匠アンドレス・セゴビアの助言が関わっています。
1925年頃にヨーロッパ・ツアーを行ったセゴビアは、当時まだ32歳でしたが、すでにギターの巨匠としての地位を確立しつつありました。
ミュンヘンを訪れたセゴビアは、これまでウィーン派の伝統的なギターを作っていたハウザーにスペインの名器であり全てのギターの元祖とも言えるアントニオ・デ・トーレスの存在やその流れを汲む自分の楽器マヌエル・ラミレスなどの「音」を伝え、研究するよう示唆したのです。
それからわずか10年後には、ハウザーの製作技術は、セゴビアがレコーディングでのメインの楽器として使用するレベルにまで成長しました。
特に、1936年に出来た逸品は「もう頼むからこれ以上のギターを作らないでくれ」と、セゴビアに言わせしめ、彼はその楽器がライバルの手に渡るのを恐れたのだとも言い伝えられています。
今回のリサイタルで使用するのはさらに10数年後の1947年作のハウザー、私にとっても、これ以上の音のギターを弾いたことはありません。
ライフ・ワークにしているバッハ作品のなかから、チェロ組曲、ヴァイオリン・パルティータ、そして名曲シャコンヌを中心にしたプログラムをお届けします。
福田進一(ギター)
仙台フィル事務局の関野です。
せんくら8回目ですね。
私も仙台フィルで仕事をさせていただいてから7年目です。
仙台フィルの公演のなかでは、チャイコフスキーを演奏する回をぜひお聴きいただきたいと思います。
もし、どの作曲家が好きですか?という質問があるとすれば、私はこの質問にうまく答えることができません。
特定の作曲家に絞ることができなくて、すべての音楽史に残る作曲家をいつもスゴイと思ってしまうのです。
優柔不断な証しかもしれませんが・・・。
バッハ、モーツァルト、シューベルト、皆、たいへんな作曲家たちです、そのように賞賛することしかできません。
ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー・・・何と人間味にあふれた偉大な作曲家たちでしょう(特にこの3名は、男女関係でも苦労した(あまり器用ではなかった)人たちかもしれません)。
チャイコフスキーでは、
迫力と抒情をあわせ持つシンフォニックな「交響曲第4番」
(10/5(土)公演番号51)、
慈しみと典雅な味わいの「ロココの主題による変奏曲」
(10/4(金)公演番号15)
をぜひお聴きいただきたいと思います。
そして、私が個人的にもこころ惹かれているのは弦楽合奏による「弦楽セレナード第1楽章」(10/5(土)公演番号51)です。
「弦楽セレナード」は、数年前(10年前かもしれません)のある人材派遣の会社のテレビCMで使用されて有名になりました。
当時の記憶では、あの印象的な出だしだけで、コンサートではお客様が沸いたものでした。
ただしこの作品は、印象的なオープニングだけで終わるものではありません。オープニングに一定の区切りがつくと、続けてすべての弦楽器が活発に前へ前へと音楽を運びはじめます。
そのメロディは抒情的でもあり、リズミカルであり、聴く者を前のめりにさせる力があります。
オープニングの音楽に沸いたお客様が途中からしんとなって、手に汗を(きっと良い意味で)握っていらしたのを覚えています。
本当は全4楽章をお聴きいただくと、第1楽章のメロディが回帰したエンディングがあり、作品の全貌を体験することができるのですが、今回は作品のテーマともいえるこの第1楽章をじっくりお聴きいただきましょう。
演奏されるようでなかなか演奏されない、機会の少ない作品ともいえますから。
音楽が皆様のくらしの近くにありますように。
仙台フィル事務局 関野寛
みなさま、こんにちは。
仙台フィル事務局の好川と申します。
せんくらブログには数年ぶりの登場となりました。
(前回の登場は仙台ジュニアオケ担当者として!)
仙台フィルが指導する、仙台ジュニアオーケストラは、10月13日の「第23回定期演奏会」へ向けて目下練習中です。
なんといっても、チャイコフスキーの交響曲第4番をメインに、ファリャ作曲の「三角帽子」、ヴェルディ作曲の「ナブッコ」序曲
…と、なかなかの手強いプログラムに挑戦します。
チャイコフスキーのシンフォニーは華やかでかっこよく、中でも後半の4・5・6番はどれも人気の高い作品です。
数々のCDを聴いても演奏は様々。
お気に入りのオケと指揮者の演奏を探す楽しみもありますね!
チャイコフスキーの4番といえば、仙台フィルも今年のせんくらで演奏します。
(ジュニアオケのみなさん、必見必聴ですよ!!)
仙台フィルは、せんくら5公演中に3公演でチャイコフスキーを取り上げます。
チャイコフスキーの4番を聴ける公演はこちら♪
公演番号51
10月5日(土)17:15~18:15 イズミティ21大ホール
《チャイコフスキーを聴こう Ⅱ》
チャイコフスキー:弦楽セレナード より第1楽章
チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 作品36
チャイコフスキーの4番の魅力とは…、
半音を巧みに扱ったメロディーが印象的な第1楽章、哀愁漂うメロディーを木管楽器が奏でる第2楽章、全弦楽器がピツィカート(指で弦をはじく奏法)のみで演奏する姿にハッとする第3楽章、途切れなく第4楽章に突入して軽快に疾走しながらも大迫力の響きが鳴り響く…といったぐあいでしょうか。
私の乏しい表現では、みなさまの想像力をかき立てることが困難かと…。
ぜひ、会場にてオーケストラの演奏をお楽しみいただけましたら幸いです。
チャイコフスキーの音楽の世界へ、仙台フィルがみなさまをお連れしますよ!
ご来場をお待ちしております!
(写真)チャイコフスキーの4番のスコア。音符がみっちり(@_@)
仙台フィル事務局 好川
こんにちは!仙台フィル事務局の後藤と申します。
せんくらブログ、とうとう裏方の事務局までおはちが回ってきました。
ビックリです(‘ jj‘)
私はオーケストラが合唱を伴う曲の時(例えば「第九」やヴェルディの「レクイエム」など)、オーケストラと合唱団の間の連絡調整役、いわばお世話役の仕事をしています。
せんくらでは、最終日フィナーレに出演する「せんくら合唱団」のお世話役も担当していますよ!
「せんくら合唱団」は、「仙台フィルと第九をうたう合唱団」「仙台放送合唱団」「東北大学混声合唱団」の3団体合同による合唱団です。
みなさんご存知でしたか?
総勢、約200人の大所帯になりますので、連絡は短く簡潔に、団体行動を守っていただけるよう気をつけています。
とくに本番の日は、最高の演奏をしてもらうことが先決ですから、出演者のストレスにならない様々な気配りが必要です。
なーんて偉そうなことを言っていますが、合唱団のみなさんはいつも協力的で、練習の準備や連絡、移動などスムーズに行われています。
非常にありがたいことです。
写真は、「仙台フィルと第九をうたう合唱団」の練習風景です。
合唱指揮は佐藤淳一先生。
8月某日、この日はオーディションから結成してまだ3回目の練習なので、周りの人の音を聞いて、音質を合わせていく練習中です。
ものすごーくゆっくりなテンポで、一音一音確かめながらみなさん真剣に取り組んでいらっしゃいます。
先生の指示のとおり注意してうたうと、あら不思議、だんだん音がまとまってくるのです。
せんくら本番の指揮は仙台フィルで16年間お世話になった梅田俊明先生。
梅田先生の音楽と向き合う真摯な姿勢は当時から目を見張るものがありましたから、今回も厳しいレッスンが待っているはず・・・。
当時を知っている人も初めてお会いする人も、頑張ってほしいですね。
せんくら最終日、最後の公演のチケットは、まだ発売中です!
合唱団200人とオーケストラの大迫力の演奏、ぜひお楽しみください!
10月6日(日)19:45~20:45
№83グランド・フィナーレ
指揮:梅田 俊明
管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団
合唱:せんくら合唱団
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」より 第4楽章
エルガー:行進曲「威風堂々」第1番 他
仙台フィル事務局 後藤
初日にも書きましたが、この夏は野平一郎さん作曲の「炎の弦」という、エレキギター協奏曲に明け暮れました。
普段使っているギターではないというハンディキャップはあっても、僕は機会があれば、なるべく、たくさんの邦人作品を演奏するように心がけます。
邦人作品、とは、現代に、同時代を生きる日本の作曲家、ということです。
海外に行ったりすると、日本の音楽についての質問を受けたり、日本の作品の演奏を所望されたりします。
ヨーロッパや北米での、日本の文化、というと、30年ほど前はサムライ、フジヤマ、ゲイシャであったのが、昨今はアニメーションであったり、アイドル・グループであったり、日本酒ブームをはじめとする食文化であったりと、多様化してきました。
僕たちが自分で思っている以上に、僕たちはアジア人に、そして日本人の見た目をしていますし、そのことは、海外に出ると、僕たちの後ろに日本という国を感じ取られている、という自覚としてよみがえります。
そしていつの頃からか、その意識を日本にいても持ち始めている自分に気がつきました。
今は取り壊されてしまった旧東ベルリンのホテルにひと月ほどいた時、フロントの女性が尺八や琵琶など日本の楽器に非常に詳しいことに驚かされました。
僕はその時、武満徹さんの音楽を演奏するためにベルリンにいたのですが、日本の音楽、と聞くや彼女は、
「あなたはどの楽器をひくの? ビワ?シャクハチ?」という風に尋ねて来たのです。
僕が、「日本の音楽をギターで弾くんですよ」と答えると、彼女はとても不思議そうな顔をしていました。
子供の頃から、父の乗る車にはアルゼンチンタンゴ、家ではモダンジャズが流れ、考えてみると僕たちの世代は、子供の頃から日本の音楽よりむしろ洋楽の影響で育った世代なので、ヨーロッパや南北アメリカの音楽を演奏する方が、自分の気持ちに寄り添ってあることが多いとさえ感じます。
三味線や琵琶より、ギターが身近にあったのだと思います。
だからこそ、純粋に邦楽器を用いた演奏をすることよりも、自分の慣れ親しんだギターで、日本の音を奏でてみたい、という欲求にかられ、自分を邦人作品の演奏へと駆り立てているのだと思います。
昨年初演した西村朗さんのギター協奏曲「天女散花」が、CDとなって8月25日に発売されました。
僕を見つけてくださった武満さんへのご恩返しとして、少しでも日本の優れた作品を多く紹介していきたい、と続けて来た活動の、現時点でのもっともおすすめできる成果となりました。
鈴木大介(ギター)
今回、「せんくら」では、バンドネオンの名手、北村聡くんとのタンゴ・デュオを演奏します。
バンドネオンとギターのデュオで、タンゴ、というのは、日本ではあまり聴かれませんが、本場アルゼンチンでは伝統的な、とても通好みの演奏スタイルです。
CDなどに残された数々の名演を参考にしながら、北村くんと僕がそれぞれに自分のパートを採譜していってリハーサルします。
もともとの演奏をしているギタリストの奏法にしたがって、ピックで弾いたり指で弾いたりするのですが、タンゴ・ギターの強さと激しさ、甘さの起伏に富んだ表現や、自在に伸び縮みするリズムを再現するのはとても興奮します。
タンゴは歌と踊りの音楽ですから、語りかけるように歌い、小刻みに踊るステップを表現できた時の喜びはひとしおです。
子供の頃から、父の車に乗ると必ず流れていたのがアルゼンチンタンゴなので、今、こうしてタンゴの演奏をしている自分がとても不思議に思われてきます。
北村聡くんとは、ジャズやドラマの音楽の録音現場でもしばしば共演しています。
ちなみに、今放映されている大河ドラマ「八重の桜」の劇中音楽でもデュオで演奏しています。
彼がバンドネオン奏者として活動を始めた、ほぼ最初の頃からご一緒させていただいていて、それだけに、お互いが
現在のように様々な現場で顔をあわせるようになった今、タンゴという、彼にとってはまさに真剣勝負の、僕にとっては父から受け継いだ憧れの音楽で火花を散らすことは、感慨深いものがあります。
是非、仙台の皆さまにも喜んでいただけるよう頑張ります!!
鈴木大介(ギター)
今日から3日間、ギタリスト鈴木大介がこちらのBlogを担当させていただきます。
まずは最近の仕事の様子から。
9月2日、サントリーホールで行われた池辺晋一郎先生プロデュースの「ジャズ、エレキ、そして古稀」というコンサートで、野平一郎さんの「炎の弦」というエレキギター(!)コンチェルトを演奏しました。
この作品は2002年にロック、ヘヴィ・メタル界の天才ギタリスト、スティーヴ・ヴァイ氏が初演したもの。
ヴァイ氏は、その卓越した演奏能力はもちろんのこと、音楽理論やスコアを作成する技能もずば抜けていて、野平先生が見せてもらった彼の作品のスコアは、変拍子あり、複雑なフレーズあり、と、さながら現代音楽のようなものも含まれていたそうです。
互いに尊敬しあう二人による初演は伝説となっていました。
そんなすごい人が弾いた作品を、エレキギター15年ぶり、ほぼ初心者の僕が弾くわけですから、池辺先生発案のコンサートのテーマが「挑戦」であるとはいえ、ほとんどやっていることはドン・キホーテなのです。
では、なぜそんな無理な挑戦をしたのか、というと、初演の後、アメリカで、現代音楽を得意とするクラシックギタリストのデヴィッド・タネンバウムさんが「炎の弦」を演奏していて、そちらは、もっと現代音楽的なアプローチで、「う〜〜ん、この二人の中間の演奏は出来るのかなぁ」と思ったのと、野平先生が以前、コンサートの楽屋でご一緒した時、子供の頃、ハービー・ハンコックなどのジャズが大好きで、本気でそちらに進もうかと考えていた、と聞いたこと。
あとはもう、弾いてみたい、という純粋な好奇心だけでお引き受けしました。
作品にはエフェクターの指定があったり、一見、ビートが存在していないように聴こえるところにも書かれていない縦のリズムが存在していたりと、それらのすべてを表現するには僕はまだまだ力不足なのですが、指揮の杉山洋一さんや東京都交響楽団のみなさんのあたたかいサポートで、リハーサルから演奏会まで、とても楽しく過ごすことができました。
今回は楽譜に書いてある強弱の指定(フォルテやピアノ、クレッシェンド、デクレッシェンドなど)を、極力ボリューム・ペダルを使って再現できるように試みたり、作曲家の希望で、これまでの演奏でされていなかった音色の変化を短い時間の間に細かくつけたりしたのですが、これがほんとうに難しかったです。気持ちと足が連動しない(笑)。。。
こういう、こまごましたエレキギターの所作については、普段「The DUO」というユニットでご一緒している、エレキギターの巨匠、鬼怒無月さんにたくさんのアドバイスをいただきました。
写真は、コンサートに来てくれた福田先生、大萩康司くん、鬼怒さん、そして今度せんくらで共演するバンドネオンの北村聡くんです。
鈴木大介(ギター)