
こんにちは。作曲家の吉川和夫です。
このたび、45分でめぐる『銀河鉄道の夜』を、せんくら・うた劇場として演奏することになりました。公演は10月5日(日)11:45~12:00、エルパーク仙台ギャラリーホール(公演番号65)です。どうぞよろしくお願いいたします。
ご存知のとおり、「銀河鉄道の夜」は宮澤賢治の代表的な作品です。ジョバンニ、カムパネルラという二人の少年が、「ほんとうの幸い」を求めて銀河を旅する、美しくも哀切な物語…。ところが、題名はよく知っているけれど、実はちゃんと読んだことがないという声もよく耳にします。特別難しい言葉が多いわけではありませんが、イメージがあまりにも壮大かつ自由に広がっていくため、ついていくのに苦労する面が、もしかしたらあるのかも知れません。
その「銀河鉄道の夜」を合唱劇にしようと考えたのは、合唱団じゃがいもの指揮者・鈴木義孝さんでした。山形を拠点とする合唱団じゃがいもは、他に類のないユニークな活動で知られています。ここには子どもからおとなまで在籍していますが、おとなの合唱団に児童合唱パートが付いているのではなく、高校生以下は必ず親と一緒に参加します。三世代で参加している家族もあります。そして、おとなも子どもも、同じレパートリーを歌うのですが、そんなふうに世代を超えて一緒に歌える合唱曲は決して多くありません。そこで、「新しい曲を書いてよ」という鈴木さんの要請に応えて、作曲家の林光さんや萩京子さんや私が作曲してきました。その多くが宮澤賢治を題材とした合唱劇となり、すでに20作品を越えています。合唱劇という形をとれば、子どもは子どもなりの、おとなはおとなの役割をもって活動することが出来ます。お芝居が目的ではありませんが、簡単な小道具や衣装は、みんなで手作り。加藤直さんや恵川智美さんといったプロの演出家に全体をまとめてもらいます。じゃがいも版の合唱劇「銀河鉄道の夜」を演出してくださったのは、故・山元清多さんでした。学生の合唱団のように、声が均質な合唱の美しさとは違って、多世代の声が混じる歌声もなかなか良いものです。
合唱団じゃがいもが、満を持して「銀河鉄道の夜」を合唱劇として制作し、山形と仙台で上演したのは2007年のことでした。名だたる名作への挑戦なだけに、私も合唱団も覚悟を持って取り組みました。しかし、原作は文庫本で60ページ余り、朗読するだけでCD2枚分の時間がかかります。私たちが脚色のポイントとしたのは、「原作の言葉を(時間の関係で)省略はしても変更はしない」ことでした。原作の言葉は、歌うために大幅に整理せざるを得ませんが、言葉の変更・置き換えは一切行っていません。それでも、上演には約2時間を要します。上演に立ち会った方々から「内容がよくわかった」「原作を改めて読みなおすきっかけになった」などの声を頂けたのは嬉しいことでした。
このたびの「せんくら」では、「銀河鉄道の夜」という作品の魅力の一端をお伝えできるよう、さらにコンパクトな45分バージョンを作りました。ここにおさまりきらなかった部分に、面白いところ、大切な言葉がたくさんあります。この公演が、原作を読み直すきっかけになったら嬉しいです。
「せんくら・うた劇場」と銘打ったのは、この合唱劇「銀河鉄道の夜」が、歌であると同時に劇的なストーリーを持っているためです。そういった作品は古今東西いろいろありますから、これから「せんくら」の中でシリーズとして上演していったら面白いのではないかなという個人的な思いを、私は持っています。
思いがけず、中村さん、髙山さん、原田さん、髙橋さん、そして倉戸さんというとても素晴らしい演奏家の皆さんが、銀河のお祭りに集まってくださることになりました。重唱版としては初演になります。45分でめぐる『銀河鉄道の夜』、ご一緒に楽しんで頂けたら幸いです。

宮澤賢治さんの墓所(2007年12月 撮影・吉川)
合唱団じゃがいもによる合唱劇「銀河鉄道の夜」



合唱団じゃがいものホームページ
http://www.the-jagaimo.com/
せんくら・うた劇場
作曲・監修 吉川和夫