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SENCLA BLOG

ブログ

三浦一馬
2017.09.25

”ドブレ・アー”、我が愛器

しつこく楽器の話を続けて3回目、これが最終回。

 

僕が弾いているバンドネオンは、連れ添って今年で11年。色々な楽器を試してきたけど、やっぱり、これが一番しっくり来る気がしています。僕にとっては、「良き相棒」といったところでしょうか(まあ、時に手こずる「じゃじゃ馬」でもあるけれど…)。

 

バンドネオン界の世界的権威、そして、僕の敬愛する師匠でもあるネストル・マルコーニ氏から譲って頂いた楽器で、バンドネオンの最高峰ブランド、Alfred Arnold(アルフレッド・アーノルド)というメーカーのものです。バンドネオン奏者の多くが、このブランドの楽器を愛用しており、その頭文字を取って「AA(ダブル・エー、スペイン語読みだと、”ドブレ・アー”)」などと呼ばれることもあります。


楽器の至るところに「AA」の印が刻されている

 

「楽器は、音楽家から多くのものを引き出す力がある」と、よく言われるけれど、僕の場合に於いても「このバンドネオンと出逢わなかったら、いまの自分はない」と、きっぱり言い切ることが出来ます。それだけ、この楽器が秘めたポテンシャルは計り知れず、いつでも僕にインスピレーションを与えてくれるのです。

 


(C)藤本史昭 愛すべき師匠、マルコーニ氏と。2016年6月、有楽町朝日ホールにて。

 


楽器の内部には、恩師直筆のサインも!

 

今年の春、この愛器の大修理を行うことになりました。というのも、バンドネオンの重要パーツである「蛇腹」の劣化が進み、空気漏れが顕著になってきていたからです。空気を送り込んで音を発するバンドネオンにとって、この「空気漏れ」は深刻な問題で、症状が進めば演奏にも支障を来たしかねません。楽器が製造された当時のままの、オリジナルの蛇腹ではありましたが、背に腹は変えられません、アルゼンチンへ行ったタイミングで修理をすることになりました。

 

修理が完了したとの知らせを受け、期待と不安の入り混じった気持ちで楽器を弾いてみると…。それはもう、楽器が新品のように生まれ変わったではありませんか!しかも、ただの新品ではなく、ボディや内装はそのままに、最新鋭のエンジンを搭載したクラシック・カーのように、歴史や栄光は失わずに保たれていたのです!!

 

…飛び上がらんばかりに喜んだと同時に、「この楽器は僕の愛器であるけれど、いつの日か、僕の師匠がしたのと同じように、大切に後世へと受け継いで行かなくては」と、使命感にも似た想いを抱くことになったのです。

 

”ドブレ・アー”、我が愛器。今後も共に!いざ、行かん!!

 


素晴らしい修理をしてくださった”THE・職人”のファリスさんと。

 

* * * * * * * * * * *

3回に渡りお送りして参りました「せんくらブログ」、お楽しみ頂けましたでしょうか?お読みくださった皆様、どうもありがとうございました!今年の「せんくら」、僕は下記の4公演に出演いたします。今回も盛り沢山な内容ですね。乞うご期待!

 

【13】バンドネオンの新たな境地 三浦一馬編曲によるオール・ガーシュウィン・プログラム
【55】全てを兼ね備えた貴公子たちが集結! 仙台だけの特別なコラボが実現
【64】ギター×バンドネオン 何かが起こる熱いデュオ!
【83】Crossover 三楽士 ~戯れる音・あふれる音

 

さて、次回からは西本幸弘さん村治奏一さんがブログを担当されます。こちらも、どうぞお楽しみに!

 

三浦一馬

三浦一馬
2017.09.24

不可思議なボタン配列

楽器の話を続けます。

 

大抵、どんな楽器でもドレミ…の並びには、ある程度の法則がありますね?例えば、ピアノだと鍵盤を右に移動していくと音が高くなり、ヴァイオリンやギターだと、弦の長さが短くなれば、音も上がっていく。これはもう当然というか、常識みたいな話なんですが、この「バンドネオン」という楽器に関していえば、その法則性みたいなものが、「全く」ないのです。これは、比喩でも誇張的表現でもなく、文字どおりの「皆無」。こんなにも複雑なドレミ…は、ちょっと他にはないんじゃないかと、我ながら思います。はい。

 

それでは早速、この楽器のボタン配列を見てみましょう。下の写真は、バンドネオンのボタン配列表。さあ、どうなっているのでしょうか?

 

えーと、なんだかよく分からない?大丈夫、ゆっくり説明しますから!まず、バンドネオンの奏法としては、蛇腹を「引っ張って弾く時(開)」と「縮めて弾く時(閉)」の2パターンがあります。それぞれ、演奏上のタイミングやニュアンスによって、そのどちらが良いかを決めているのですが、その2つのパターンによって、ボタンに対応している音が変わるのです。…うーん、まだ分かりづらいですね。。。つまり、「同じボタンを押し続けていても、蛇腹の開閉によって、音が変わってしまう」ということなのです。これでお分かり頂けましたか?(笑)

 

先の配列表で、1つのボタンに2つ音が載っているのはその理由によるもので、白玉の音符(二分音符)が「引っ張って弾く時」で、黒玉の音符(四分音符)が「縮めて弾く時」を表しています。この表を見ると、右下のボタンは、引っ張った時が「ソ」、縮めた時が「レ♯」。音が4度ほど下がりましたね。では、ひとつ上のボタンに移動すると、引っ張った時が「シ」、縮めた時が「ド♯」。あれ?今度は、さっきほど音が変わっていない。しかも音が上がってる。…そうなんです。音の変わり方に法則がありませんね。そして、あれあれ?そもそも、よく見ると隣同士のボタンなのに音階が連続していない…!

 

どうです?だんだん、表の見方が分かってきたのではありませんか?お暇な方は、この表をどうぞ隅々までご覧になってみてください(笑)

 

お気づきの方もいらっしゃるかも知れませんが、この楽器を演奏しようと思ったら、まず、このボタン配列を暗記しないと話になりません。僕も、バンドネオンをはじめた頃、必死になって、この配列表を頭に叩き込んだものです。だから、記憶力には自信があるんですよ…なんて言ってみたいところだけど、、、何故か、それとこれとは話が違うんだなぁ…(笑)

 

さて、次回は僕のブログも最終回。現在、僕が弾いている愛器についてお話しします。お楽しみに!

 

三浦一馬

 

三浦一馬
2017.09.23

バンドネオン大分解!

こんにちは!バンドネオン奏者の三浦一馬です!

 

…と元気よく挨拶したところで、「ん?なに?」「あなた、バンドやってらっしゃるの?」、なんて聞き返されることは日常茶飯事。まぁ、何だか聞き慣れない名前だし、そもそも実際に見る機会なんて、 なかなかないですからね。せっかくなので、少しでも楽器のことを知って頂けるよう、今日から3日間、「バンドネオン」にまつわることを、せっせと書いていきたいと思いますので、どうぞお付き合いくださいませ!

 

さて、初回である今日は、「バンドネオン大分解」と題して、楽器の内部まで大公開いたします!よく「アコーディオン」と間違われることが多いのですが、まあ、それもそのはず、楽器の形から音に至るまで、なかなか似てますからね。でも、よく見ると大きな違いに気付くはず。…そう、一般的なアコーディオンにあるはずの「鍵盤」がありませんね?

 

このボタンは、右手に38、左手に33、合計71個あり(中途半端…)、古い楽器だと象牙製のものもあります(上の写真参照)。このボタンを押すと、当然音が鳴る訳ですが、楽器の内部では、どんなことが起こっているかと言うと…?

 

 

どうです?楽器内部って、かなり、複雑な作りをしているでしょう!ボタンを押すと、レバーを介して反対側の蓋が開き、そこにのみ空気が流れ込む仕組みなのです。…そう、いま「空気」と書きましたが、このバンドネオンという楽器は、空気を使って音を出しているのです。その「空気」を作り出す役目を担っているのが、「蛇腹(じゃばら)」と呼ばれる部分。

 

この蛇腹が「ふいご」と同じ原理で空気を生み出しています(ちなみに、素材は紙と革)。模様も綺麗ですね!蛇腹を引っ張ったり、縮めたりする強さによって、音の強弱も変化するので、これも、この楽器に於いて、とっても大切なパーツ!そして、最後に忘れてはいけないのが、この楽器の心臓部である「リード」。要は、振動して音を発する薄い板のことですが、管楽器にも多く使われていますね。では、バンドネオンのリードを見てみましょう。

 

沢山ありますね!音の高さによって、リードの大きさも違うことがお判り頂けると思います。ちなみに、写真に写っているのは、右手側のリード群。反対の左手側も合わせると膨大ですね!そう、バンドネオンには、何と百数十枚ものリードが、所狭しと詰め込まれているのです!!

 

バンドネオンの構造、何となくでもお分かり頂けましたか?「蛇腹」で空気を起こし、「ボタン」によって空気の流れ道を作って、その空気で「リード」を振動させて音を出す…。小ぶりな楽器でありながら、実はなかなか複雑な経路を経て音が鳴っているのですね!

 

それでは、最後に、バンドネオン全てのパーツを分解した写真をどうぞ!次回は「不可思議なボタン配列」と題して、この楽器のドレミ…についてご紹介します。お楽しみに!

三浦一馬

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