
初日にも書きましたが、この夏は野平一郎さん作曲の「炎の弦」という、エレキギター協奏曲に明け暮れました。
普段使っているギターではないというハンディキャップはあっても、僕は機会があれば、なるべく、たくさんの邦人作品を演奏するように心がけます。
邦人作品、とは、現代に、同時代を生きる日本の作曲家、ということです。
海外に行ったりすると、日本の音楽についての質問を受けたり、日本の作品の演奏を所望されたりします。
ヨーロッパや北米での、日本の文化、というと、30年ほど前はサムライ、フジヤマ、ゲイシャであったのが、昨今はアニメーションであったり、アイドル・グループであったり、日本酒ブームをはじめとする食文化であったりと、多様化してきました。
僕たちが自分で思っている以上に、僕たちはアジア人に、そして日本人の見た目をしていますし、そのことは、海外に出ると、僕たちの後ろに日本という国を感じ取られている、という自覚としてよみがえります。
そしていつの頃からか、その意識を日本にいても持ち始めている自分に気がつきました。
今は取り壊されてしまった旧東ベルリンのホテルにひと月ほどいた時、フロントの女性が尺八や琵琶など日本の楽器に非常に詳しいことに驚かされました。
僕はその時、武満徹さんの音楽を演奏するためにベルリンにいたのですが、日本の音楽、と聞くや彼女は、
「あなたはどの楽器をひくの? ビワ?シャクハチ?」という風に尋ねて来たのです。
僕が、「日本の音楽をギターで弾くんですよ」と答えると、彼女はとても不思議そうな顔をしていました。
子供の頃から、父の乗る車にはアルゼンチンタンゴ、家ではモダンジャズが流れ、考えてみると僕たちの世代は、子供の頃から日本の音楽よりむしろ洋楽の影響で育った世代なので、ヨーロッパや南北アメリカの音楽を演奏する方が、自分の気持ちに寄り添ってあることが多いとさえ感じます。
三味線や琵琶より、ギターが身近にあったのだと思います。
だからこそ、純粋に邦楽器を用いた演奏をすることよりも、自分の慣れ親しんだギターで、日本の音を奏でてみたい、という欲求にかられ、自分を邦人作品の演奏へと駆り立てているのだと思います。
昨年初演した西村朗さんのギター協奏曲「天女散花」が、CDとなって8月25日に発売されました。
僕を見つけてくださった武満さんへのご恩返しとして、少しでも日本の優れた作品を多く紹介していきたい、と続けて来た活動の、現時点でのもっともおすすめできる成果となりました。
鈴木大介(ギター)