文字の大きさ 普通 特大

SENCLA BLOG

ブログ

鈴木大介
2013.09.10

日本の音楽について―2013.09.10

初日にも書きましたが、この夏は野平一郎さん作曲の「炎の弦」という、エレキギター協奏曲に明け暮れました。

普段使っているギターではないというハンディキャップはあっても、僕は機会があれば、なるべく、たくさんの邦人作品を演奏するように心がけます。

邦人作品、とは、現代に、同時代を生きる日本の作曲家、ということです。

海外に行ったりすると、日本の音楽についての質問を受けたり、日本の作品の演奏を所望されたりします。

ヨーロッパや北米での、日本の文化、というと、30年ほど前はサムライ、フジヤマ、ゲイシャであったのが、昨今はアニメーションであったり、アイドル・グループであったり、日本酒ブームをはじめとする食文化であったりと、多様化してきました。

僕たちが自分で思っている以上に、僕たちはアジア人に、そして日本人の見た目をしていますし、そのことは、海外に出ると、僕たちの後ろに日本という国を感じ取られている、という自覚としてよみがえります。
そしていつの頃からか、その意識を日本にいても持ち始めている自分に気がつきました。

今は取り壊されてしまった旧東ベルリンのホテルにひと月ほどいた時、フロントの女性が尺八や琵琶など日本の楽器に非常に詳しいことに驚かされました。
僕はその時、武満徹さんの音楽を演奏するためにベルリンにいたのですが、日本の音楽、と聞くや彼女は、
「あなたはどの楽器をひくの? ビワ?シャクハチ?」という風に尋ねて来たのです。
僕が、「日本の音楽をギターで弾くんですよ」と答えると、彼女はとても不思議そうな顔をしていました。

子供の頃から、父の乗る車にはアルゼンチンタンゴ、家ではモダンジャズが流れ、考えてみると僕たちの世代は、子供の頃から日本の音楽よりむしろ洋楽の影響で育った世代なので、ヨーロッパや南北アメリカの音楽を演奏する方が、自分の気持ちに寄り添ってあることが多いとさえ感じます。
三味線や琵琶より、ギターが身近にあったのだと思います。

だからこそ、純粋に邦楽器を用いた演奏をすることよりも、自分の慣れ親しんだギターで、日本の音を奏でてみたい、という欲求にかられ、自分を邦人作品の演奏へと駆り立てているのだと思います。

昨年初演した西村朗さんのギター協奏曲「天女散花」が、CDとなって8月25日に発売されました。

僕を見つけてくださった武満さんへのご恩返しとして、少しでも日本の優れた作品を多く紹介していきたい、と続けて来た活動の、現時点でのもっともおすすめできる成果となりました。
鈴木大介(ギター)

鈴木大介
2013.09.09

タンゴについて―2013.09.09

今回、「せんくら」では、バンドネオンの名手、北村聡くんとのタンゴ・デュオを演奏します。

バンドネオンとギターのデュオで、タンゴ、というのは、日本ではあまり聴かれませんが、本場アルゼンチンでは伝統的な、とても通好みの演奏スタイルです。

CDなどに残された数々の名演を参考にしながら、北村くんと僕がそれぞれに自分のパートを採譜していってリハーサルします。

もともとの演奏をしているギタリストの奏法にしたがって、ピックで弾いたり指で弾いたりするのですが、タンゴ・ギターの強さと激しさ、甘さの起伏に富んだ表現や、自在に伸び縮みするリズムを再現するのはとても興奮します。

タンゴは歌と踊りの音楽ですから、語りかけるように歌い、小刻みに踊るステップを表現できた時の喜びはひとしおです。

子供の頃から、父の車に乗ると必ず流れていたのがアルゼンチンタンゴなので、今、こうしてタンゴの演奏をしている自分がとても不思議に思われてきます。

北村聡くんとは、ジャズやドラマの音楽の録音現場でもしばしば共演しています。
ちなみに、今放映されている大河ドラマ「八重の桜」の劇中音楽でもデュオで演奏しています。

彼がバンドネオン奏者として活動を始めた、ほぼ最初の頃からご一緒させていただいていて、それだけに、お互いが
現在のように様々な現場で顔をあわせるようになった今、タンゴという、彼にとってはまさに真剣勝負の、僕にとっては父から受け継いだ憧れの音楽で火花を散らすことは、感慨深いものがあります。

是非、仙台の皆さまにも喜んでいただけるよう頑張ります!!
鈴木大介(ギター)

鈴木大介
2013.09.08

仙台のみなさん、こんにちは。


今日から3日間、ギタリスト鈴木大介がこちらのBlogを担当させていただきます。

まずは最近の仕事の様子から。
9月2日、サントリーホールで行われた池辺晋一郎先生プロデュースの「ジャズ、エレキ、そして古稀」というコンサートで、野平一郎さんの「炎の弦」というエレキギター(!)コンチェルトを演奏しました。
この作品は2002年にロック、ヘヴィ・メタル界の天才ギタリスト、スティーヴ・ヴァイ氏が初演したもの。
ヴァイ氏は、その卓越した演奏能力はもちろんのこと、音楽理論やスコアを作成する技能もずば抜けていて、野平先生が見せてもらった彼の作品のスコアは、変拍子あり、複雑なフレーズあり、と、さながら現代音楽のようなものも含まれていたそうです。

互いに尊敬しあう二人による初演は伝説となっていました。
そんなすごい人が弾いた作品を、エレキギター15年ぶり、ほぼ初心者の僕が弾くわけですから、池辺先生発案のコンサートのテーマが「挑戦」であるとはいえ、ほとんどやっていることはドン・キホーテなのです。

では、なぜそんな無理な挑戦をしたのか、というと、初演の後、アメリカで、現代音楽を得意とするクラシックギタリストのデヴィッド・タネンバウムさんが「炎の弦」を演奏していて、そちらは、もっと現代音楽的なアプローチで、「う〜〜ん、この二人の中間の演奏は出来るのかなぁ」と思ったのと、野平先生が以前、コンサートの楽屋でご一緒した時、子供の頃、ハービー・ハンコックなどのジャズが大好きで、本気でそちらに進もうかと考えていた、と聞いたこと。

あとはもう、弾いてみたい、という純粋な好奇心だけでお引き受けしました。

作品にはエフェクターの指定があったり、一見、ビートが存在していないように聴こえるところにも書かれていない縦のリズムが存在していたりと、それらのすべてを表現するには僕はまだまだ力不足なのですが、指揮の杉山洋一さんや東京都交響楽団のみなさんのあたたかいサポートで、リハーサルから演奏会まで、とても楽しく過ごすことができました。

今回は楽譜に書いてある強弱の指定(フォルテやピアノ、クレッシェンド、デクレッシェンドなど)を、極力ボリューム・ペダルを使って再現できるように試みたり、作曲家の希望で、これまでの演奏でされていなかった音色の変化を短い時間の間に細かくつけたりしたのですが、これがほんとうに難しかったです。気持ちと足が連動しない(笑)。。。

こういう、こまごましたエレキギターの所作については、普段「The DUO」というユニットでご一緒している、エレキギターの巨匠、鬼怒無月さんにたくさんのアドバイスをいただきました。

写真は、コンサートに来てくれた福田先生、大萩康司くん、鬼怒さん、そして今度せんくらで共演するバンドネオンの北村聡くんです。

鈴木大介(ギター)

カテゴリー