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SENCLA BLOG

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2021
2021.09.28

出演アーティスト 吉川和夫さんからのメッセージ

せんくら・うた劇場「泣いた赤おに」~ことばと音をむすぶ

吉川 和夫(作曲家)

 

今年も、せんくら・うた劇場を開催できることになり、大変嬉しくワクワクしています。今年は、中村優子さん、髙山圭子さん、原田博之さん、武田直之さんという最強歌唱陣に、倉戸テルさん(ピアノ)、山本純さん(チェロ)、星律子さん(マリンバ)という名手が加わって、山形県出身の作家・浜田廣介の名作「泣いた赤おに」をお届けします。

ちいさなお子さんのために「読み聞かせ」をしますよね。せんくら・うた劇場は、物語を歌と音楽でお聴きいただく、おとなも子どもも楽しめる「歌い聞かせ」です。

さらに、アトリエ・コパン美術教育研究所(石巻+仙台、主宰=新妻健悦さん、新妻悦子さん)の6歳から11歳までの子どもさんたちが、この公演のために、物語に合わせてとてもステキな絵をたくさん描いてくれました。音楽とともにスライドで映写します。楽しい物語と美しい絵、そして音楽が繰り広げるせんくら・うた劇場の世界、ぜひお立ち会い頂きたいなと思っています。

 

 

 

 

合唱劇「泣いた赤おに」について、少しご紹介しましょう。2017年10月、仙台クラシックフェスティバル「せんくら・うた劇場」公演のためのアンコールとして、ラストの場面「青おにの書き置き」を作曲しました。その後、山形を拠点とする合唱団じゃがいもから声をかけて頂き、文翔館創作劇場の上演曲目として全体を作曲、2019年3月に文翔館議場ホールで初演しました。それまで合唱団じゃがいもとともに作ってきた作品と同じく、多少省略することはあっても、基本的には原文そのままに作曲をする、ことばの置き換えや脚色は一切しないというスタンスです。

しかし、正直言って、「泣いた赤おに」全体を作曲することには、少々のためらいがありました。あまりにも有名な作品であること、すでに他の作曲家によって音楽化されていることが理由ですが、浜田廣介の文体に付曲する難しさも、ためらいの理由のひとつでした。例えば、「それはまるいたまごでした」と書かれても差し支えない文が、ひろすけ童話では「それはひとつのまるいたまごでありました」(「よぶこどり」)となっていたり、「ですから」が「それでしたから」(「むくどりのゆめ」)であったり、やや古風とも言えますが、大変丁寧な文体で書かれていますので、ひとつの文が長くなります。文が長くなれば、それだけ作曲するべき音が増え、旋律が長くなり、話の運びが遅くなるのです。その点は、以前に作曲した音楽童話「むくどりのゆめ」でも経験したことでした。それでも、作曲を手がける私としては、あらすじだけを抜き出した作品にしたくはない、ひろすけ童話の格調というべきこの文体をまるごと音楽に乗せたいと考えましたので、作曲にあたっては話のテンポが緩慢にならないよう留意する必要がありました。

また、ひろすけ童話を音楽化する難しさは、文体だけではありません。ひろすけ童話の主人公たちには、どこか孤独の影が見え隠れします。母の面影を慕うむくどりの子(「むくどりのゆめ」)、いなくなってしまったひなを待ち続けるりす(「よぶこどり」)、星の光のように輝きたいと願う古い街灯(「ひとつのねがい」)。これらの主人公たちは、みんなひとりぼっちで何かを求め続けています。人間たちを喜ばせることはできたけれど、親友を失うことになった赤おに、友のために自己を犠牲にした青おにもまた、自分ひとりで生きていくことを引き受けなければならない孤独を抱えます。ユーモアと優しさで包み込まれた孤独と寂寥感を描きだすのは容易ではありませんが、音楽にはそれらを温かく包み込む力があります。目で読むのとはまた違った、ひろすけ童話の魅力を聴き取って頂ければ幸いです。

 

2021年せんくら、公演番号68、せんくら・うた劇場「泣いた赤おに」は、10月3日(日)14時15分、エルパーク仙台・ギャラリーホールで開演です。どうぞお楽しみに!

 

 

 

 

吉川和夫

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