いよいよ、せんくら開幕です。
安永さん及川さんとお二人の急病はありましたが、この規模のフェスティヴァルで、全員生身の演奏家、このくらいのことはありえます。
5枠とも素晴らしいピンチヒッターの方もご出演なさいますし、その他予定通りのものも含めてご存分にお楽しみください。
安永さんに代わって行われる4つの公演2,3,66,67番、および及川さん予定だった100番公演、以上の5枠は当日券もすべて前売り価格の1000円で発売させていただきます。
及川さんに関しては前売り段階で売り切れになっておりますが、キャンセル等出たものは、当日でも前売り値段で売らせていただく、ということです。
さて、それで安永さん代演者の最後のご紹介メジューエワさん。
67番枠 10/12(土) 16:00-16:45
太白区文化センター/楽楽楽ホール
ムソルグスキー:展覧会の絵 全曲
今年のせんくらに、イリーナ・メジューエワさんに出ていただこうと決定的に思ったのは、テレビで放映された「ぴあのピア」という番組でした。そこでメジューエワさんは譜面を見ながら実に素晴らしい「展覧会の絵」を弾いていたのです。
この曲を過度に表題的になり過ぎずに、よりピュアーに弾かれており、その結果、大天才ムソルグスキーの音楽的メッセージはより明確に伝わってくる、といったタイプの演奏でした。暗譜はすればいいというものではありません。
それで早速今年のせんくらへのご出演、曲目は「展覧会の絵」と「ロシアの小品を中心に」とお願いしたのですが、幸いにも両方共にすぐに売り切れました。
そこで今回の安永さんの代わりの1つに、「展覧会の絵」の追加をお願いしたわけです。
鮫島さんと同じく、買いそびれた方、当日でも同じ値段で入れます。12日(日)太白文化センター楽楽楽ホールへどうぞおでかけください。
平井洋 せんくら2008プロデューサー
くしくも始まった、この安永さん代演シリーズも、
最終回にイリーナ・メジューエワさんをご紹介して、「さあ本番です」となる予定でした。
ところが、なかなか現実はそう予定通りにはいきません。
安永さんに続いて及川浩治さんも病にお倒れになり、出演不能になってしまいました。
不整脈で歩行もできない状態でのドクターストップです。
及川さんは以前スタジオのドアで小指を挟んで骨折してしまい、その数日後にベートーヴェンの協奏曲第5番「皇帝」の本番を控えていたのですが、何と10本指を9本指の運指に変えて本番を弾ききった、という伝説の持ち主です。
これほど本番に執着を持つ人が、ギブアップしたのですから、
ご本人のお気持ちも察するに余りあるものがあります。
そして、今回も何より及川さんを楽しみにしておられたお客様には、
本当にご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません。
そしてやはり代演の問題。
本番開始前夜と言うことで関係者も全員仙台におり、及川さんの事務所社長までお詫びと説明に仙台に来てくださり、急遽皆で話し合いました。
その結果の結論は、「代わりは津田裕也さんしかいない」。
そう昨年の仙台国際コンクールの覇者、仙台出身の津田さんです。
これまた今までの誰より普通の話ではなく、彼はそもそも今年のせんくらでモーツァルトのコンチェルトを1回と、松山冴花さんと2つのデュオプログラムがすでに演奏が決まっています。
これに更にコンチェルトの追加は、普通は考えられません。
ですが「津田さんならいけるだろう」というのが衆目一致しての判断でした。
津田さんはコンクールの本選ではベートーヴェンでしたし、現在の留学先はベルリン。一見するとドイツ系向きに見えます。ですが、彼は何系というより実に作品に即した表現、音色を使うのです。
昨年のコンクールのセミファイナルのラヴェルは、実にブリリアントな近代フランスらしい輝きのある表現でした。松山さんはじめ共演者が皆、津田さんとは繰り返し共演したがるのも、その作品や相手と合わせることのできる多彩な表現力があるからでしょう。
ですからきっとショパンでも、彼らしいショパンの本質にせまった表現をしてくれると思います。
及川さんは、サントリーホールでも一般売りで満員にできる人気者です。せんくらでも毎年1500の大ホールがすぐに売り切れ。しかも宮城県出身という、どこからみても「せんくらの顔」のお一人です。チケットご購入の方で及川さんだけが目的だった方も多いでしょう。
今回も、もちろんキャンセルのシステムは整えさせていただきました。
http://sencla.com/news/senclanews.html
ですが、このコマは是非皆さんキャンセルしないで聴いてください。
きっと「音楽ってこんなにいいものか」と、生涯の記憶に残る特別の体験ができると思います。
そして最後になりましたが、皆様、今年のせんくら全体もどうぞお楽しみください。
平井洋 せんくら2008プロデューサー
いよいよ本番直前です。
今、前日のリハーサルに向かう途中の新幹線の中でこれをMacBookで書いています。PHSの発信機をつけてどこからでも通信もできます。携帯電話も持っていて最近ようやくメールも写メも出来るようになったのですが、こちらは滅多に使いません。
さて「Explorer」の最終楽章ですが、これはまさしく終末を含む内容になりました。そのアイディアを得た瞬間ははっきり覚えていて、それはパリのホテルの部屋で夜中に目が覚めた時です。パリには友人の画家松井守男の個展見学の為に来ていました。「ベルネム・ジュンヌ」というゴッホの個展を最初にやったという名門画廊で、いつものように松井の絵から大きな刺激を受けました。翌日には郊外に住む従兄弟を訪ねました。この従兄弟の四柳与志夫は、生命科学の研究でフランスの研究所に来て日本に帰らず80歳を超えています。長老として尊敬されノーベル賞級の研究をしています。会ってすぐに分子生物学や素粒子や宇宙やビッグバンの話を聞かせてもらいました。ビッグバンの想像上の写真というものがあることも知りました。この時に、昔初めてSF小説に出会った時のどきどきする気持ち、センス・オブ・ワンダーがあらためて強く甦ってくる感覚を覚えたのです。
これがちょうど第3楽章を構想している時期だったのですね。さまざまな刺激が夢の中で再構成されたのでしょうか。夜中に目が覚めた時にはっきりとしたアイディアをつかんでいました。それは自分が宇宙に飛び出し、旅をして、さまざまな生物に出会い、やがて時間をさかのぼってビッグバンに遭遇して消滅する、というものです。そのさまざまな生物を、木管、金管、弦、打楽器というオーケストラの要素に対応させて、夫々としっかり出会って対決しようというアイディアも同時に得ました。
当然、ビッグバンとの遭遇と消滅が大クライマックスになりますが、ではその後はどうなるかという問題が残りました。
ものすごい偶然ですが、ちょうど今、日本人学者の受賞で話題になっているノーベル物理学賞のテーマが「ビッグバンのあとにどうして我々の宇宙は存続しているのか」というものだそうですね。それなんですね!
私も同じテーマで悩んだのです!! そして、ある解答を提示しました。
そのことをお話しする前に第3楽章のストーリーをお伝えしておきます。竹林の中を通り過ぎる風の音のようにピアノとオケが浮遊し、やがてピアノがテーマを提示します。このテーマは「展覧会の絵」のプロムナードのように場面の転換部に必ず出てきます。
やがて4発のロケットブースターの炸裂によって私は宇宙に放り出されます。途方にくれているところに、まず出てくるのが木管楽器による「猫生物」です。このテーマは、前にも触れた私のニューヨーク・トリオ結成20周年記念アルバムのタイトル曲「トリプル・キャット」です。次に弦楽器による無窮動のような「地底生物」に出会います。次が金管楽器で、ここでは素粒子や原子核がはじける光景を目撃します。そして最後に疾走する打楽器生物に出会い、やがて時間をさかのぼってビッグバンに遭遇し消滅します。
さてその後どうなるかですが、ビッグバンによってこの宇宙が始まったというのが定説ですから、次の瞬間には宇宙ができ始めなければならない。どうやってこしらえるのか。ここで、もはや頭の中がミクロマクロ極小極大、粘菌増殖素粒子消滅、猫にミミズにバクテリア、星雲爆発重力崩壊、という脳神経シナプス暴発状態になっていた私は、とんでもないことを考えました。それは今まで作った自分の曲ですべてこの世を満たしてしまおうというものです。あきれた誇大妄想です。「この世は自分が作った」と言いはっている人と同じかもしれません。しかし、どのような想像も創造もできる音楽の世界だからこそこれは許されると信じて突き進みました。
その場面で最初に現れるのはオーボエ・ソロの曲「A Letter To Lady Rabbit 」です。以下28曲の自作曲が現れて時空を満たしていきます。最後の方には35年以上前に作った初アルバムのタイトル曲「ミナのセカンド・テーマ」がトランペットで高らかに響きます。絶妙のタイミングなのですが、これをここに配置したのは編曲者の挾間美帆です。この箇所の曲の順番や配置や、どうやって響かせるのかは、第1曲目を指示した以外は全て彼女のアイディアにゆだねました。
実際この第3楽章は、他にも多くの箇所が彼女のアイディアで作られています。彼女は伴奏音楽にも優れていて、イギリスのDartington International Summer Schoolに参加しているほどですので、先程来述べているストーリーを伝えながら楽譜や音源を届けました。「ビッグバンの写真」の載った本も手に入れて、一緒に眺めました。「この写真のような音が欲しい」という相変わらずの無茶な要求に見事に答えてくれています。せんくらの本番には残念ながら挾間美帆は来られませんが、その素晴らしい音の全てをどうかお聴きとどけください。
ここまで書いて、リハーサルに臨みました。さすがに山下一史マエストロと仙台フィルの呼吸はぴったりで、いつのまにか私のわがままな新曲が旧知のレパートリーのように余裕を持って響くようになっていました。メンバーの方々が思い切って挑戦をして下さる場面もしっかり伝わってきて、本当に気持ちよくやらせていただいています。本番が待ち切れません!
リハが終わって廊下を歩いていたらヴァイオリンの漆原啓子さんに遭遇しました。1986年にこの方の率いる「ハレー・ストリング・カルテット」で自作のピアノ五重奏曲をやっていただきましたが、それが今日に繋がるクラシック・プレイヤーとの共演プロジェクトの第一歩でした。恩人です。明日聴きにきていただけるかもしれないとのこと。あちらの本番は夜に「四季」なので、それを私も客席で聴けるという相互交流が実現しそうです。こんなことが起きるのも「せんくら」ならではですね。
それでは、本日はどうかごゆっくりお楽しみください。明日12日にはソロピアノも2回ありますが、これは大仕事の後のゆったりした気持ちで取り組めるとても嬉しい時間です。
ブログを読んでいただいてありがとうございました。
しかし、ブログを読んで興味を持ったが演奏会には行けない、という方もおられるかもしれませんね。
その場合にも実は朗報があります。
このピアノ協奏曲第3番「Explorer」初演の演奏がCDになって発売されることになりました。
Avex Classicsから12月24日発売です。
どうぞそちらでもお聴きください。
よろしくお願いいたします。
安永さん代演シリーズ3番目の66番枠
10/12(日) 13:15-14:00
太白区文化センター/楽楽楽ホール
はヴァイオリンの伝田正秀さんが中心です。
仙台の皆様には、申し上げるまでもない仙台フィルコンマスで、最近フォンテックから「シェエラザード」「チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲」のアルバムなども発売されており、仙台地区以外でもファンの方も随分いらっしゃるでしょう。
このアルバムの前にはシュトラウスの「英雄の生涯」も同シリーズで発売されており、伝田さんはそこでもオーケストラの中のソロパートを弾いておられます。
「シェエラザード」でも「英雄の生涯」でもオーケストラのなかのコンサートマスターとしてソロを弾く曲は協奏曲とはまた違う難しさがあり、特に「英雄の生涯」などはその技巧的な難しさも桁外れで、いわゆるヴァイオリンのソリストに、「英雄の生涯」のソロ弾いてみますか?といっても、多くの方は逃げ出すくらいです。
その名コンサートマスターが仙台にはいらっしゃるわけですから、こちらの考えることは決まっています。
「イザという時はお願いできるな!」
演奏家は全員生身で、どんなに細心の注意を払っても不可抗力のトラブルは0にはできません。我々からすると、せんくらのような100コマくらい本番があるフェスティヴァルでは内心は平均2コマくらいのトラブルがあることは覚悟しています。
今回のように数日前に分かればまだしも、もっと直前のこともあります。そうなったらもう他から代演を手配しているヒマはありません。そこで地元ご在住で、あっという間に準備できる能力の持ち主は当然目がつけられるわけです。
せんくらの初年度の本番前に私は伝田さんに質問しました。「イザとなったら2-3日準備すれば弾いていただけますか?」伝田さんは軽く「エー、2-3日あれば」とお答えくださいました。
これまでは幸いにもその機会はありませんでしたが、今年はこういうことで、実際お願いしたわけです。こういう方がいらっしゃることがどれほど有り難いか身に沁みます。
伝田さんは、元々ご自身のリサイタルを1コマやっていただくので、普通は同じプロをお願いするのですが、彼の能力と、その元のチケットをお持ちの方は違う方が楽しいだろう、と考えて、あえて別のプログラム(皆様お望みの「ツィゴイネルワイゼン」だけは重なりますが)でお願いしました。
そこで伝田さんが提案してくださったのが、弟君の伝田正則さんの助っ人参加。正則さんはチェロ奏者で東京芸大首席卒業、現在は、チョン・ミョンフンとかも指揮しているドイツの名門のザールブリュッケン交響楽団で弾いているという、すごい経歴のかたです。(写真もご覧ください)
お家の大事で呼び寄せたのか、偶然里帰り中だったのか、ともかくこんな素晴らしいゲスト参加も急に決まり、ピアノの武井美樹とともにトリオの名曲「メンデルスゾーン
ピアノトリオ第1番より」、それに伝田正秀さんによる(安永さんが弾いてくださる予定だった)「愛の悲しみ」とか、ヴィターリの「シャコンヌ」といったポピュラー小品が加わる、という何とも豪華なプログラムが完成しました。
こういう機会に伝田正則さんのような若手をご紹介できるのも、フェスティヴァルの醍醐味でもあります。皆様どうぞお出かけください。
平井洋 せんくら2008プロデューサー
「Explorer」の第2楽章は、ゆっくりとしたピアノソロから始まります。最初に出てくる特有の和音進行に最後までこだわりますが、これはヴァイオリンの松原勝也さんのリサイタルの為に書いて2004年に初演されたヴァイオリン・ソナタ「Chasin’ The Phase」の第1楽章で使ったアイディアです。ありがちのようで、実はあまりないかもしれない4個の和音からなるサイクルで、Fm→Dbm→Dm→Aという進行が次には半音上のBbmから続きます。結果として、12のキーを4度上がり(5度下がり)で巡りながら4×12=48個の和音が出現するというものになりました。
そしてこの楽章には、かの偉人作曲家の有名なフレーズが2カ所借用されています。12/8拍子のパートで出現するティンパニと、後半のピアノ・カデンツ直前の不思議な和音です。前者は「第九」から、後者は「英雄」からです。前者はそのジャズ的な出現の仕方が、後者はその時代にはあり得ない「未来のジャズ・サウンド」のような和音がとても気になっていたものです。自分の作品に取り込むことによって何とか理解しようとしたのかもしれません。ベートーヴェン好きの方々は、どうかおイカリにならず、ニヤっと笑ってくださるようお願い申し上げます。
中間部のオーボエが奏でるメロディ以降しばらくは、前出の「Chasin’ The Phase」が援用されていますが、
「ここから英雄の和音につなげてください」という私の無茶な要求に挾間美帆がどう答えたか、
是非、耳をすませてお確かめ下さい。
安永さん代演シリーズ、続いては
公演番号3番/10月11日(土)15:00-15:45 青年文化センターコンサートホール
をお引き受けくださったソプラノの鮫島有美子さんです。
(写真提供:コロムビアミュージックエンターテインメント)
鮫島さんについては、あらためて紹介する必要もないくらいで皆様のほうが良くご存知でしょう。
せんくらは2回目のご登場で、初年度も今回も、またたく間にチケットが売切れてしまっているのが、その何よりの証拠です。
ご多忙な鮫島さんが、元々の2コマにご出演いただけるだけでも、ただただ有難いと思っていましたが、今回の事態で全く快く3コマ目の追加出演をお引き受けくださいました。
そもそものデビューもヴェルディの「オテロ」のデズデモーナですし、ドイツのウルムの歌劇場(カラヤンも音楽監督をしていたことのある名門)で数々の主役も歌っておられました。こうしたオペラのキャリアから、定評あるドイツリート、そしてCDがブレークしたのは日本の歌曲です。
コロムビアから発売されている鮫島さんの日本の歌の数々の販売数は、通常のクラシックのアルバムのそれに0の数が2つも3つも加わっており、トータルでどのくらい売れているのか分らないくらいです。もちろん100万枚は軽く突破しているでしょう。彼女のこのシリーズだけのために専門の情報サイトページが作られているくらいです。
http://columbia.jp/artist-info/samejima/
いわゆる日本歌曲以外でも、今年発売された最新アルバムはこういうラインアップです。
1. 誰もいない海
2. この広い野原いっぱい
3. 若者たち
4. 夜明けのうた
5. あなた
6. 希望
7. さとうきび畑
8. 見上げてごらん夜の星を
9. 遠くへ行きたい
10. 恋人よ
11. 秋桜
12. 夢で逢いましょう
13. いい日旅立ち
14. 千の風になって
このように、オペラ、リート、日本歌曲からニューミュージック、ポップソングにいたるまでジャンルを飛び越えて自在に、しかも最高級の完成度の仕事をしておられるのは驚嘆するしかありません。
今回の追加公演で歌っていただけるのは、12日の44番ワクと同内容で、「さとうきび畑」や現在の地元ウィーンもの、といった鮫島さんらしい幅広く楽しんでいただけるプログラムです。
売り切れてすっかりあきらめてしまった皆様、この貴重な追加公演の機会をどうぞご利用ください。
平井洋 せんくら2008プロデューサー
「崩壊」を含む導入部が終わると、ピアノがメイン・テーマを提示して曲が進行します。すぐに短いピアノソロ・カデンツがでてきますが、カデンツからの復帰とオケとの合流などはすべて即興の流れの中で行われるので、ここではあらかじめ決めておく音列やリズムの合図と共に、指揮者への目配せ、指揮者からの目光線をキャッチ、などのやり取りが大変重要になってきます。その辺をリハでも入念に確認しました。その後の演奏も私の好みの音形やリズムを反映させた構造のもとに進んでいきます。オケと楽しくやり合うのが原則で、早々にティンパニ・ソロが登場して、ピアノと一瞬斬り結ぶ場面も出てきます。
やがて韓国の伝統音楽のリズムを使った段落へ突入したり、黒鍵だけを偏愛する箇所があったり、pf vs orch のくっきりしたやり取りから、是非ともやりたかった低音部への肘打ち下降なども実現します。その直後に出てくるオケだけのアッチェルランドするブリッジの部分は、邦楽の人に教えてもらった「獅子」に関連する有名なフレーズを援用しました。またどうしても欲しい「フーガ」パートも入れました。これは今年20周年を迎える私のジャズ・グループ「山下洋輔ニューヨーク・トリオ」の最新CD「トリプル・キャッツ」の中に「Driving Fuga」という曲名で収録した曲です。このテーマを見せて「何とかこれをオケとピアノで出来るようにして下さい」と挾間美帆に頼んだわけです。するとたちまちあのような素晴らしい場面が実現しました。他の場面もそうですが、こちらが詳しく音を指示した所もあるにせよ、オケのサウンドはすべて編曲者の手柄です。「共作者」に限りなく近い存在と言った意味がお分かりと思います。
やがて第1楽章は終幕を迎えますが、私のオケの曲なのですから、一度はメンバー全員で「フリー・プレイ」を展開していただくことになります。嫌でもやっていただきます!ここは見もの、聴きものと確信しております。
そして一気にエンディング・スマッシュですが、この曲では最後にひと工夫したくなりました。
それが何なのか、是非本番でお確かめ下さい。
さて、その安永さんの代演で、今回2番枠
10/11(土) 12:45-13:30
仙台市青年文化センターコンサートホール
にご登場いただけるのが、ヴァイオリンの鈴木理恵子さん。
せんくらには、初めてのお目見えです。
桐朋学園時代から嘱望された存在で、卒業後すぐに23歳で、まずは新日本フィルハーモニーの副コンサートマスターとして招かれ、その後、スウェーデンのマルメ歌劇場(北欧の名門です)のオーケストラや読売日本交響楽団にもゲストコンサートマスターとして招かれています。
ソリストとしては、チェコフィルをバックに「四季」のCDを入れたり、リサイタルでもお相手のピアニストは、藤井一興さんとか高橋悠治さんとか野平一郎さん、といったそうそうたる作曲家兼ピアニスト達が並んでいます。
このようにクラシックの略歴だけとっても、これでもか、という位なのですが、理恵子さんの場合、更に加古隆さんや久石譲さん(「となりのトトロ」や「崖の上のポニョ」の作曲者)といったジャンルを超えた独特な活動をなさっている方々からの信頼も厚く、彼らの主なコンサートにはよく招かれています。確か理恵子さんの最新CDは久石さんのプロデュースだと思います。
更に更に、クラシック系の演奏家としては珍しく、アジアとの交流にも熱心で、アジア各地に出かけていってコンサートを開いたり、横浜の美術館ではアジア系の音楽祭の音楽監督をやったりしています。
そんな理恵子さんですから、せんくらにも「いつか是非」と思っていましたが、今回こういうことで急遽実現しました。本当は他にスケジュールもおありだったようですが、「はい、そういうことなら喜んで」とあっさりお引き受けくださいました。
その彼女が今回の仙台にいるメンバーを見渡して相棒として指名したのが、なんとギターの福田進一さん。
ギターとヴァイオリンの組み合わせはよくあるので、そのこと自体は驚くに値しませんが、今回の福田進一さんは15分前まで他のホールでソロリサイタルを弾いているのです。普通は、これは考えられません。何と言っても開場してお客様が入ってこられるときに福田さんはまだアルベニスか何かを他の本番で弾いている最中なのですから。
それで、「それは無理です」と申し上げたのですが、理恵子様のお答えは実に簡単で「福田さんなら大丈夫です」。
それで、ともかく電話を切り、福田さんのマネジャー氏におかけしました。
福田さんと言えば、第1回のせんくらの時は、前日海外から成田空港に帰国してそのまま仙台入りのはずが、台風のため飛行機は成田に着陸できず、深夜関西国際空港に着陸してしまいました。もう東海道新幹線も無い時間です。更に寝台特急は満席。
それで福田さんは、マネジャー氏に「せんくらは飛ぶね」と電話したところ、「そんなことをしたら飛ぶのはせんくらではなく、僕のクビです」というせんくらの歴史に残る名文句で、福田さんはやむなく席もない寝台特急に飛び乗り、そこから更に満席の新幹線を乗り継いで本番15分前にホールに現れた、ということがありました。
これは、あまりに面白い話なのであちこちで書いたりしゃべったりしているので、もうご覧いただいた方もいらっしゃるかもしれません。
ともかく、そのマネジャー氏に電話をして、「15分前までソロ弾いてるんだから、福田さん駄目ですよねー」と言ったところ、「いや、理恵子さんのお言葉には逆らえないでしょう」。そこで念のためご本人に確認してもらったら、「理恵子さんのおっしゃるようにするそうです」とのお答え。
これで鈴木理恵子、福田進一の共演が決まりました。やはり「美人の鶴の一声」に勝てる人間はいないようです。それにしても福田さんは、よほど開演15分前にご縁があるようです。
プログラムも、急遽決まったとは思えない素晴らしいもので、超絶技巧のパガニーニやバルトーク、そして楽しいタンゴのピアソラまで入っています。
皆様も是非ご存分にこのプログラムを楽しんでいただきたいと思います。
http://sencla.com/performer/suzukieriko.html
平井洋 せんくら2008プロデューサー
その挾間美帆共々仙台にやって来て、仙台フィルとのリハーサルを6日にやりました。
指揮の山下一史さんとは、この5月に兵庫県立芸術文化センターで筒井康隆さんの「フリン伝習録」という、歌、朗読、ジャズ、オーケストラが入り乱れる「メリー・ウイドウ」が原作の出し物を一緒にやっています。その中には、こちらが即興的に作る音楽とオケを合わせる場面が何度もありました。両者の橋渡しのやり方を完全に把握しておられるので、安心してお任せできます。すでに「Explorer」についても、山下一史さんとの打ち合わせは済ませてありました。(写真:山下一史さん*photo:K.Miura)
第1楽章のはじまりは、クラリネットのソロです。これは「ラプソディ・イン・ブルー」の出だしに一瞬似ていますが、すぐにそれとは全然ちがうクラとピアノの競演が始まります。やがてそこにオケが入ってきて、第1回のカタストロフィに向かいます。この「崩壊」への動きは計3回ありますが、この場面に実はこの曲の基本的なコンセプトが凝縮されています。第3楽章のクライマックスは、時間をさかのぼって「ビッグバン」と遭遇するというものなのですが、その圧縮された構造がここにあることをあらためて発見しました。
作曲者のくせに今さらなんだと言われても仕方がないのですが、アイディアを得た時には全体がまだ見えないという状態もあるのですね。そして全体が出来た上であらためて見直すとそういう構造になっていた。それを無意識のうちに求めていたのでしょうか。
また崩壊に参加するオケの音の中には、第1楽章に出てくるテーマの断片が全てちりばめられています。これは挾間美帆のアイディアと手腕で、全ての音が前兆にも予兆にも回想にも聴こえる、音楽という芸術の不思議さをあらためて描き出してくれたと再認識しました。
今回の仙台フィルとの再演の機会に、この第3番「Explorer」は、私にさまざまな新しい意味と発見をもたらしてくれるようです。
このたびの安永さんの病気によるキャンセルは、さぞや皆様驚かれたでしょうし、落胆されているでしょう。
その前に、このことがまだお耳にも届いていない方がたくさんいらっしゃると思いますから、我々としては少しでも多くの皆様、特に安永枠のチケットご購入の皆様に、まずはこの情報をお届けすべく全力を傾けたいと思います。
そして情報をお知りになった方々、大変ご面倒をおかけしますが、そのままその枠で代わりのものをお聴きいただくか、キャンセルするかをお選びいただきたく存じます。
そのままお聴きいただける場合は、何の手続きもいりません。当日そのチケットをご持参の上、ご入場ください。
キャンセルご希望の方は、公式ホームページのこのページ
http://sencla.com/news/senclanews.html
に詳細がございますので、そちらをご覧ください。
実際問題としては、特に「せんくら」型のフェスティヴァルで空けるわけにもいきませんから、どなたかに代わりに演奏会をやっていただかなくてはなりません。ですが、芸術の秋の連休時という演奏家にとって最も忙しい時期に、代わりができる方は極めて限られます。ましてや内容的にも安永さんに代わってというのは大変なことです。
安永さんは、この「せんくら」のために4コマも弾いてくださるはずでした。
それをすっぽり代わる、というのは今からでは無理な話です。
それで1コマでも代わりを弾いてくださる方、せんくらの中で早期に売り切れとなり、チケットご所望の方がたくさんいらっしゃって、なおかつ時間的に出演可能な方々と相談させていただき、結局オフィシャルサイトに掲載された4組の方に代演をお願いしました。
http://sencla.com/news/senclanews.html
この4組すべての方は、もちろん何らかのご都合もおありで、通常は考えにくい調整をしていただいた上で、出演をご快諾くださいました。感謝の言葉もありません。各出演演奏家の所属事務所の皆様も、休日深夜を問わず調整のために全面的なご協力をいただいたことも敢えて書き添えたいと思います。
平井洋 せんくら2008プロデューサー