「作曲家は、自分の作品の、演奏されるテンポを指定するために”速度標語”を付け加える。作家に同じことができたら、と想像してみて欲しい。」モルゲンシュテルンという、ドイツの作家の言葉(大まかな訳ですが)です。
初めてこの言葉に出会ったとき、私は読者が読むべき速度を、作家が指定することなど、無理だと思いました。
でも、ふと考えてみたのです。
たとえば、ひとつの音楽作品の中には、リズムと楽章の持つ雰囲気があり、それは、アダージョ(ゆるやかに)やアレグレット(ややアレグロで)という、速度標語に応じています。
では、本の場合はどうか!
たとえば、ゆるやかでロマンティックな心構えで読者にある章に臨んでもらいたいなら、作家は「アダージョ」を使うと良いかもしれません。そして、サスペンスに満ちた段落には「ポコ・ア・ポコ・アジタート(少しずつ激しく)」、人々が大宴会をしている場面の浮かれ騒ぎを表現するには「クレッシェンド(しだいに強くあるいは大きく)」などなど、そんなふうに作家が付記したらと想像してみてください。
時々私は、自分が演奏する曲に合わせて、ある本のイメージや雰囲気を思い描くことがあります。
作曲家と作家は、共に他者が読む・聴くための作品を創造します。私達の一人一人がこの両方に、あるいはどちらかに感動させられる方法は確かなものです。
わたしは、この言葉には、本当にいろいろなことを考えさせられました。あなたはどう思いますか?
では、またあした!
今日は、ベルリンを出発して、演奏会のために日本へ向かいます!
川久保賜紀(ヴァイオリン)