第1回 焼きそばを混ぜるように「朝比奈隆」
最初に取り上げるマエストロ、指揮者は朝比奈隆さんです。
2001年12月29日に93歳で亡くなったときも生涯現役、世界最長老指揮者として君臨されておられました。
私は小学生のころから指揮者のまねをして、みんなを笑わせるのが好きでした。
当時よくまねをしたのは、「帝王」と呼ばれたヘルベルト・フォン・カラヤン。箸を片手に、目をつぶって格好よく振り、一人悦に入ったものでした。
しかし、次第にそうした格好よさよりも、メリハリがあって大御所の風格をたたえた指揮者に魅力を感じ始めます。やがて、レオポルド・ストコフスキーやカール・ベームのようなげんこつで指揮する人を好むようになりました。
ところが、1981年にベームが亡くなったんです。彼に代わる現役の巨匠を探していたころに、ちょうどブレークし始めたのが朝比奈隆さんでした。彼は私の地元、大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督でしたから、演奏会に何度も通いました。そのうちにどんどん好きになっていったんです。朝比奈さんが年を重ねるにつれ、風格を増してゆく姿にも感動しました。
朝比奈さんのまねをするときに一番困ったのは、彼の白髪に似たカツラがなかなか見つからなかったことです。
それで、NHKの番組「あしたもげんきくん」に出演していたころに知り合った老舗のカツラ屋さんのもとへ、番組出演終了後、働きに行くようになったんです。そこで朝比奈さんの写真を見せたところ、ぴったりのカツラをプレゼントしてくれました。
カツラの素材がいいと、物まねの雰囲気も自然と映えるものです。このカツラは毛を1本ずつ植えて、色も細かく丁寧につけてあります。かぶるだけでお年寄りに化けられるほど見事な出来です。
もう15年以上愛用していて、もし、盗まれでもしたら、私は明日から仕事ができないくらい大切な相棒ですね。
朝比奈さんをまねるポイントは、焼きそばをかき混ぜるような円運動でタクトを振るところです。
よく使う曲は、晩年の彼が得意としたベートーベンやブラームス、ワーグナーなどドイツの重厚な作品ですね。
彼の演奏終了後の儀式だった「スタンディングオベーション」と「ブラボーの嵐」が起こりやすい選曲と芸を心掛けています。最初は穏やかに登場して、指揮まねのクライマックスではいつ倒れてもいいくらいの
情熱を注いで、朝比奈さんになりきっているんです。
好田タクト(パフォーマンス)