こんにちは、加藤です。最終日は、今週ブログが同時進行していた、ヴァイオリンの前橋汀子さんです。人気、そしてその音楽の素晴らしさともに、まさに我が国音楽界の女王です。
おそらく今までに何百回(何千回?)と本番で演奏してきたであろう小品のような作品に対しても、いつでも同じようにリハーサルに取り組み、さらに新しい発見や、新しい可能性を見出そうとして、ちょっとしたバランスや間、テンポの取り方といったことを、普通に聴いていたら分らないほど微妙に変化させたりして、少しでも音楽を高みへ導こうとしている姿勢に本当に頭が下がるし、心底尊敬しています。
そして、たとえばブラームスのソナタのようなものを合わせているときでも、3時間ぐらい全然休みを取らずに弾き続けるという、すごい集中力とヴァイタリティを持っていて、これはひたすら音楽の確信へ向かっていこうとする、執念にも似た探究心から来ているのでしょう。こうした意識とエネルギーを持ち続けているからこそ、何十年にも亘って第一線で活躍してこられたのであり、またこれから先も、前へ進み続けることができるのだと思います。
華やかな、そして一見エンターテイメント性の強いような小品であっても、全身全霊をその数分に注ぎ込み、媚びるような演奏や、表面的な効果を狙ったりするといったところとは正反対の位置に立ち、感覚よりも心の底に直接訴えかけてきて、そこから真の感動を呼び起こすような音楽をする芸術家であると私は捉えています。ステージで一緒に演奏しながら、本番中にもかかわらず幾度となく心を震わせられてきました。
さらに素晴らしいのは、音楽そのものの持つ原初的な喜び、楽しさのようなもの、あるいはヴァイオリンという楽器が持っている根源的な魅力を振り撒きながら、精神の高みに向かっていくような厳しく深い音楽を同時に感じさせてくれる、もしかしたら、矛盾しているんじゃないか、と思わせるようなことを共存させているということです。
ご自分の本番がないときは、コンサートやオペラ、バレエ、さらには日本の伝統芸能などに、ご自分でチケットを取られて足しげく通われる方でもあります。そこからまた刺激を受けたり、新しいアイデアを得て、演奏に反映させていかれてもいますが、でも直接的には、そのためにというよりも本当に好きで通っていて、楽しんだり感動されてて、時々「この間聴いたあのコンサートは、こんな感じで素晴らしかったのよ。」とか、「バレエを観に行ったのだけど、あの人の動きにはびっくりしたわ。」とか嬉しそうに話してくれるのです。一度、「これ行けなくなっちゃったから。すごく行きたくてやっと手に入れたんだけど・・・」と、国立劇場の文楽のチケットをいただいたこともありました。感受性がずっと新鮮なままで、そして何に対しても好奇心に満ち溢れてて、とにかく若いのです。
いつどんなコンサートのときにも、そのステージの一瞬一瞬に存在の全てをかけて燃焼しつくそうとする前橋さん、仙台での本番が少し違ったスタイルのコンサートなだけに、一体どのようなものになるのか、共演者としてどのような体験ができるのか、いまからとても楽しみです。
本日で私の最初で最後のブログは終わりです。
つたない私の話にコメントをくださった方々、そしてお付き合いくださったすべての方々に深く感謝いたします。どうもありがとうございました。コンサートの場でお会いできることがあればとても幸せに思います。
加藤洋之(ピアノ)