こんにちは!!
日本人で唯一、ハンガリアンジプシー音楽を本格的に演奏している古館由佳子です。
昨日のブログ、いかがでしたか??
コンサートのチラシを見つけたところで終わってましたね。

コンサートの主役の「ラースロー・ベルキ・ジプシー楽団」
リーダーのラースロー・ベルキさんは、当時、ハンガリーの国立舞踊楽団のリーダーで、100人のブダペストジプシー楽団の創立メンバーでした。
彼のステージで驚いたこと、それは、彼の楽団の音楽合奏の一体感。それは、日本で聞いた事のあるどの音楽アンサンブルをも遥かに越える緻密さでした。
各パートがアドリブ演奏で伴奏をしているのにひとつにまとまって、プリーマーシュというソロ奏者を引き立てつつ、ソロ奏者も楽団の伴奏パートを完全に「飼い慣らして」いる。
ここで、豆知識ですが、ジプシー楽団の編成は、
プリーマーシュ(ソロヴァイオリン)
ツィムバロム
ダブルベース
ビオラ
セカンドヴァイオリン
クラリネット
チェロ
概ねこんな編成です。あとは各々の楽器の人数が増えることで全体の楽団の大きさが決まります。
クラシックの楽器の表記の順番に慣れてる人は、あれっ? と思いましたよね??実はこれ、重要な楽器順に書き出しました。
ツィムバロムは、東欧地方独特の楽器で和音が演奏出来る打楽器です。
昨日のYouTubeを聴いてくれた方なら、打楽器と言っても、とても繊細な表現が可能な楽器と感じてもらえたと思います。ソロヴァイオリンと同じくらいツィムバロムはやはりジプシーバンドにはなくてはならない楽器です。
重要な楽器順、というのは、上から順に足していくと段階的にアンサンブルが充実してくるという意味です。
最小単位は、
ソロヴァイオリンとツィムバロム、
次に足すとしたら、コントラバス、
次に足すならビオラ、
次に足すならクラリネットかセカンドヴァイオリン・・・以下省略。
面白いことにジプシー楽団は、編成が大きくても小さくても、それなりに形になるように伴奏形態が出来ています。もちろん、奏者の力量によりますが、大抵の奏者はソロも伴奏もどちらもイケるのです。これは、楽譜に頼らず、コード進行を基準としてアドリブ演奏(伴奏)するから出来ることなんです。
なんと言っても、ソロのメロディーからしてアドリブ肉付けしています。
と、大体の様子がわかったところで、 ベルキ楽団の凄さ、に戻ります。
速いチャールダーシュと呼ばれる楽曲で日本人には考えられないくらい目も眩む速さでアドリブを繰り出すのは彼らにとっては序ノ口です。本当の凄さは違うところにありました。
その1、
「あ、うん、の呼吸で演奏をしているので、非常に遅い曲でのバンドの一体感が際立つ。」
特に、コントラバスの強拍、ビオラの弱拍のペアの間合いを取る呼吸が絶妙。実はこの「間合い」に、グサリと心臓を射抜かれたのでした!このときのビオラは、ヴァーラディ・ガビ。コントラバスはマカ・ジュラ。後にハンガリーで再会してとても楽しく彼等と過ごしました。
その2、
「伴奏のアドリブメロディが限りなく美しいアンサンブルを醸し出す。」
ビオラとセカンドヴァイオリンとチェロ、これらのソロヴァイオリン以外の弦楽器がすることは、如何にソロヴァイオリンよメロディを引き立たせるか。(かつ自分もどうやって目立つか(笑))これが、素晴らしいのですよ。時には非和声音を駆使して、その時々で一番、メロディーとその興奮度にぴったり合った居心地のいい対旋律を紡ぎ出すこと。それこそが、彼らの楽団での存在意義であるし、彼らの音楽家としての価値を高めているのです。もちろん、プリーマーシュと同じくらい演奏技術が無いと出来ない事です。
悲しい旋律はより悲しく、
美しい旋律はより美しく、
速いパッセージはより速く??あ、それは、いけませんね。
次の3つ目にも関係あります。
因みに、このときのチェリスト、ヴァイダ・バルナバーシュが後にハンガリーで私の先生になってくれました。
彼の自由なアドリブ・オブリガートに憧れました。
その3、
「プリーマーシュが、すべてのテンポを決める。」
ジプシー楽団には指揮者が居ません。俗に言う弾き振り、という状態なのですが、曲始めに弓等で指揮するプリーマーシュは不粋というもの。マジャール・ノータ、という、ハンガリーの国民的歌謡曲があり、その伴奏はほとんどジプシー楽団が受け持ちます。日本では歌謡曲の伴奏にオーケストラが必用になったときはクラシックのオーケストラ的な編成で演奏しますが、ハンガリーでは、クラシックのオーケストラが呼ばれることはほとんどありません。
そうです、ここに、
コンサートなのにレストラン演奏と関係あるの??
の答えがあります。
ジプシー楽団のもともとの成り立ちというと、観客に演奏を提供する立場から発生しています。観客とは、何かを楽しみたい人達。ジプシー楽団が提供したのは、生演奏でのその場を盛り上げるということでした。
それなので、ジプシー楽団はハンガリーでは冠婚葬祭や式典、歌謡曲コンサート等、事あるごとに引っ張りだこです。その上、レストランでの毎晩の演奏。時には、国外の大富豪に呼ばれての結婚式演奏ツアー。
私が日本でしてきたレストランでの生演奏のプロフェッショナルが、正に彼らだったのです。

コンサートで演奏するのは彼らの演奏形態のほんの一角。
彼らの良さが引き立つのは、側でお客様が彼らの演奏を聞いて盛り上がってくれるとき。時にはバンドの音楽で観客が一緒に歌ったり、踊ったり。
観客の満足がバンドの評価基準なのです。
あのー。忘れてませんか?
最初のバンドのテンポはプリーマーシュが、決めるって、結局なんなの??
あはは、激しく脱線してしまいました。
要するに、観客に盛り上がって貰うには、次に演奏する曲をプリーマーシュの裁量で決めるので、どんな曲をどんなテンポで演奏するのか、話してる暇はありません。はじめのフレーズを聴かないとなんの曲かわからないので、大抵は曲初めは伴奏無しのアカペラ状態!!!もちろん弾きたいテンポで始める責任がプリーマーシュにはありますね。
弾きはじめに伴奏なくなるのは面白いですよね。彼らの知恵ですね。 クラシックの音楽会で、もしもソロヴァイオリニストが突然予定と違うコンチェルトを弾き始めたら暗譜で付いて来てくれるオーケストラはありませんよね(笑)
プリーマーシュがどんな曲を弾き初めても楽団メンバーは付いていけるように、知ってる曲の多さも半端ない彼らでした。

いかがでしたか?
ジプシー楽団の凄さが少しでも伝わったら嬉しいですね。
ベルキのコンサートに初めて接したときは、コンサート会場でCDを購入してそれから2年間、毎晩毎晩、聞いていました。そして、2年後に、ベルキ楽団との奇跡的な再会があり、その出会いのお陰でブダペストに音楽修行に行くことが出来たのでした。なぜ奇跡なのかは、また他の機会にお話ししますね!!
ハンガリーで色々なバンドの演奏を聞いて色々な事を沢山学び直したことで、こうやって皆さんに凄さをお知らせすることが出来ましたが、実際に演奏を聞いてみないと、やはりピンと来ないですよね!!
今日は、ラースロー・ベルキさんのYouTubeをご紹介します。
https://youtu.be/XECo4H8bxno
ハンガリーのテレビ番組ですが、バリエーションの編曲が得意だった彼独特の世界に触れることが出来ます。
明日のブログは、仙台に来るメンバーをご紹介しますね。彼らは若いメンバーですが、凄いですよ。
ハンガリー・ブダペスト・ジプシートリオ