せんくらブログを読んで下さっている皆様、こんにちは。
いよいよ僕のブログも最後日となりました。
クラリネットのために書かれた名曲の誕生の背景には、偉大な作曲家とその時代に活躍した優れた、そして大変個性的なクラリネット奏者との出会いがありました。
今日はその話を簡単に、それから今回演奏させて頂くプログラムについても簡単に説明したいと思います。
モーツァルトは、当時のウィーンを代表するクラリネット奏者、アントン・シュタットラーと出会い、有名なクラリネット協奏曲やクラリネット五重奏等の傑作が誕生しました。
シュタットラーはテオドール・ロッツというクラリネット職人とコラボレーションし、新しいクラリネットの開発に取り組みました。その中で普通のクラリネットより更に音域の広いバセット・クラリネットやバセット・ホルンという楽器を作ったのですが、この楽器とシュタットラーの特別な演奏に触発されたモーツァルトがこの名曲を生み出したのです。
ロッツ製のバセット・ホルン

(写真はエリック・ホープリッチ著 「The Clarinet」より)
有名なブラームスの晩年のクラリネット・ソナタやクラリネット五重奏、クラリネット三重奏は、リヒャルト・ミュールフェルトというクラリネット奏者のために書かれています。元ヴァイオリン奏者であり、指揮者でもあったミュールフェルトの表現力に感激したブラームスは、失いかけていた創作意欲を再び取り戻し、これらの傑作を短い期間に一気に書き上げました。

左:ミュールフェルト、右:ブラームス
ガラ・コンサートで演奏させて頂く、メシアンの〈世の終わりの四重奏曲〉の中のクラリネット・ソロ曲《鳥たちの深淵》も第二次世界大戦中に出会った、アンリ・アコカというクラリネット奏者との出会いにより、これまでで最もあたらしく、刺激的なクラリネット・ソロ曲が生まれました。アコカは本当に個性的な奏者だった様で、メシアンの手記には「メタリックな音を出す奏者」と書かれています。

アンリ・アコカ
ピアノとのデュオ公演のテーマは「ファンタジー」ですが、その中で演奏させて頂く、クラリネット・ソロのための〈幻想曲〉の作曲者である1973年生まれのヨルク・ヴィトマンは、世界中の音楽祭やオペラハウス、オーケストラから委嘱が舞い込む大活躍中の作曲家であり、世界的なクラリネットのソリスト、そして素晴らしい指揮者です。
作曲家兼指揮者だったり、作曲家兼ピアニストという方は歴史的にも多くいらっしゃいますが、作曲家兼クラリネット奏者というのは歴史的にも珍しいのではないかと思います。
また僕にとって、現在を生きる偉大な作曲家の、自作自演を聴ける事は、作品を最もわかり易く知る事が出来、とても貴重な機会だと思います。

ヨルク・ヴィトマン © Marco Borggreve
曲名にファンタジーと付けられている訳ではありませんが、とても幻想的で夢の様なクラリネット・ソナタをニーノ・ロータが残しています。ニーノ・ロータは皆様もご存知の通り、「ゴットファーザー」や「太陽がいっぱい」や僕も大好きな映画監督である、フェデリコ・フェリーニのほとんどの映画音楽を手掛けていますが、たくさんの素晴らしい純音楽を作曲しています。
特にクラリネットの作品は多く、このソナタやクラリネット、チェロとピアノのための三重奏曲、木管五重奏や九重奏、そしてアレグロ・ダンツァンテというクラリネットとピアノのための小品も残しています。映画音楽でもニーノ・ロータはクラリネットを活躍させている事からもきっとクラリネットに何か特別なファンタジーを抱いていたのではないでしょうか。隠れた名作をこの機会に是非とも聴いて頂きたく思っております。
それでは、会場で皆様にお会い出来ることを楽しみにしております!
3日間おつきあい頂き、有難うございました!
吉田 誠