皆様、こんにちは。
松坂優希です。
10月5日に行われる「宮沢賢治の聴いたクラシック」。
今回私は、ナビゲーターの萩谷由喜子さんからのリクエストで、ベートーヴェンの月光ソナタより第1楽章、シューマンの子供の情景よりトロイメライ、そしてリストのパガニーニによる大練習曲よりラ・カンパネラを演奏させていただきます。
私は、2002年から2006年まで、オランダのロッテルダム音楽院に留学していたのですが、リストのエチュードというと、師事していた恩師、アキレス・デッレヴィーネ先生から聞いた逸話をいつも思い出します。
アキレス先生は南米のご出身で、かの有名なピアニスト、クラウディオ・アラウの元でピアノを学ばれた方です。
アラウはベートーヴェンなどのドイツ音楽を得意とするイメージの強い演奏家ですが、自身がリストの高弟であるクラウゼに師事していたこともあり、リストの演奏においてもまた、一筋縄ではいかぬこだわりを持ったスペシャリストでした。
さてさて、時は遡り1960年代。
初めてアラウの家の門を叩いた若き10代のアキレス先生は、レッスン室に通され、まずリストの超絶技巧練習曲を弾くよう言われたそうです。
緊張しつつも1曲を無事に弾き終え、アラウの顔を伺うも、無言。
違うエチュードをもう1曲弾くも、まだアラウは黙ったまま。
仕方なくそのまま数曲弾いていると、おもむろにアラウが立ち上がりピアノの前に腰掛けると、エチュード全曲をさーっと一息に、あたかも息をしているかのように自然に、それでいて信じがたいほどに素晴らしい指さばきと音色でもって弾き切ったんだそうです。
「つまりね」にっこり笑うアキレス先生。
「彼にとっては、12曲全て通したものが、ひとつの作品としての”超絶技巧練習曲”だったんだよ」
はぁーっと感嘆の息を漏らした私に次の瞬間、予期せぬ一言が。
「じゃあ、ユキの次の宿題はエチュードにしようかな。まずはショパンね」
「ええと……どれをやったらいいでしょうか?」
嫌な予感が胸をよぎる私に、にやりと楽しそうな先生。
「どちらでもいいよ。op.10でもop.25でも、好きな方全曲で!」
(ショパンのエチュードは、op.10とop.25に、それぞれ12曲ずつおさめられていて、通常は1~2曲ずつ抜粋して順に勉強します)
留学一年目の秋。忘れられない思い出です。

アキレス先生と一緒に
松坂優希