せんくらファンの皆さんこんにちは。栗コーダーカルテットの川口義之です。三人なのにカルテット、ということで毎回ゲストプレーヤーを加えて演奏活動をしているわけですけれども、他の二人がせんくらにまつわる文章をまとめてくれると信じて、全然関係ないフェスティバルのことに触れたいと思います。なんだかせんくらと共通したところがあるなあと前々から思っておりまして。
アメリカの深南部と言われるあたりにニューオリンズという大きな都市があります。ジャズ発祥の街として有名ですね。35年前、初めての海外旅行の時に訪れて以来、相当な回数通ってますが、それというのも4月の最終週の金、土、日と5月の第一週の木、金、土、日の七日間に渡って大きな音楽フェスティバルがありまして、それを観に行くのがコロナ禍前までの年中行事のようになってました。今年になってようやく再訪したのですが、相変わらずのハッピーで無理のないイベントでした。正式名称はニューオリンズジャズ&ヘリテッジフェスティバルといって、ヘリテッジは遺産、伝承、伝統みたいな意味で、出演者はジャズに留まらずアコーディオンやバイオリンを使った地元の音楽のザディコやケイジャン。ロック、ポップス、ラップ、ゴスペル、フォーク、ブルースなどなど。
(https://www.nojazzfest.com/music-schedule/)
日本の山の方で行われる巨大な音楽フェスなどとは違って、こちらは町の競馬場の中だけで行われます。競馬場は街の中心であるフレンチクォーターから車で10分。路面電車(トラム)を使っても2〜30分といったところでしょうか。4〜50分かければ徒歩でも行ける距離です。その限られたスペースの中に12箇所のステージ、他に競馬の屋内観覧席を利用したミュージシャンのインタビュー会場が一つ、子供達に楽器を教えたりするキッズテントが一つ、ルイジアナ州の郷土料理のオープン教室が一箇所。12のステージは音楽の傾向でおおよそ出演者が振り分けられていて、名前も分かりやすくジャズテント、ブルーステント、ゴスペルテントなんて屋根付きの会場もあれば、アリーナクラスの人数がいっぺんに観られる野外の会場が三つ。古いスタイルのジャズを一日中演奏している小ぶりなテントでは、高齢のご夫婦なんかが仲良く踊れるスペースが用意されていたり、ちょっとした配慮がそこかしこに感じられます。
午前11時開場で程なく演奏が始まり、終演はおおよそ午後7時。今年はまた料金が上がりまして当日券が95ドルでしたが、一日中全てのステージが自由に観られます(初めてフェスにいった頃は12ドルくらいだった記憶が)。各会場への入場制限はないようで、おおらかなお客さんは好きな出演者のテントの外に椅子を並べたりして、音だけを楽しんでいたりします。各演奏の長さは早い時間帯は4〜50分程度が多く、後半やや長めになり、メインの大きなステージでは一時間半から二時間の、ほぼフルコンサートくらいのボリュームの演奏を聴くことができます。目当ての出演者がある人たちは、早くから集団で椅子を並べて陣取ったりしているのはどこのフェスも同じかな。食べ物や飲み物のブースも沢山ありますし、ビール売りやピーナッツ売りが会場を回っていたりもします。
時折ステージ以外の場所でマルディグラインディアンと呼ばれる集団の派手な衣装のパレードが列をなしていたり、ちっちゃなスペースでメキシコのマリアッチの演奏やネイティブアメリカンの踊りや太鼓が始まったりと、偶然見かけたものがとても印象的だったりします。自分が毎回楽しみとしているものとしてはカルチュラルエクスチェンジ、文化交流という枠がありまして、毎年違った国のミュージシャンが何組も招聘されて、色々な会場で演奏を行います。今年はプエルトリコのミュージシャンが大挙してやってきて、どのバンドも素晴らしい演奏でした。過去にはキューバやブラジル、ジャマイカ、アフリカ(国名は失念)なんてのがあったような気がします。これだけ沢山の出演者がいると全く知らないミュージシャンも多いのですが、フリーペーパーのフェス特集には出演アーティストの略歴が辞書のように引けるようになっていて実に便利。
お昼の11時から夜7時でイベントが終わったと思ったら大間違い。この時期は町のあらゆるライブハウス、バーなどで有名無名のミュージシャンが演奏をしています。それも店によっては朝まで!同じライブハウスが夜9時から12時、深夜12時から3時、3時から朝6時なんて感じでフル回転。僕もフェスの会場から宿に戻るや否やシャワーを浴びて、Tシャツ短パンから多少フォーマルめの服装に着替えて再び夜の街に出かけていきます。便利なことにフリーペーパーにはその日の主だったライブのスケジュールが列記してあったりしますし、もちろん今時はウェブで調べることもできます。僕はアメリカーナのジャンルでグラミー受賞者のベテラン女性シンガーソングライター、ルシンダウィリアムズをシビックシアターに観にいきました。そうした前売りが売り切れてしまうようなビックネームもいれば、ドリンク代とチップだけで飛び込みで観られる気楽なバーもいっぱいあります。翌日の朝11時にフェスの会場にいようと思ったらそんなに夜更かしはできないのですが、ついはしごをしてしまって結局疲れ果てて翌朝の会場入りが午後になることはしばしば。炎天下に8時間いるのはしんどいのでそれはそれで良いのですが。アメリカの南部の日差しはなかなかのものです。このところはつい日差しを避けてテントの中のプログラムを中心に観てしまうようになったかな。
この素敵なフェスにも悩ましい問題が二つあります。まず一つ。二週間のうちに必ず一度は大雨が降ります。嵐といってもいいくらい。屋内の会場もいくつかあるとはいえ、皆さんびしょ濡れ。雨の後の時間帯の演奏が全て中止になったこともあるし、一度だけ丸一日完全に中止になったのも経験しました。随分昔ですが、その日はハリーコニックJr.が出る日だったので観たかったなあ。そして雨の翌日からは元々競馬場だけあって土はドロドロ。芝生で寝転がって聴くなんて楽しみもできなくなっちゃいます。
もう一つは、せんくらを経験している方なら思い当たることでしょう。観たい、聴きたい出演者の時間帯がぶつかるんです。これはもうしょうがない。このフェスに関しては各ステージのトリの時間帯には色々なジャンルの有名ミュージシャンが目白押しです。かつて自分は、ひどい時には終盤の二時間ほどの間に10ステージくらいをはしごして移動したこともあります。エリッククラプトン、なんて有名な方のステージでさえ、2曲ほど聴いたら次に移動したり。今年に至っては、もはや諦めてハービーハンコックのステージは全く観ないって決めて、トムジョーンズのステージを最初から最後まで観たり。今回のこのビックネーム二人の出演ステージは競馬場の端と端だったのではしごは諦めましたが、遠目に観たり聴いたりするくらいだったら、各ステージの間の移動は割と楽で、一つのステージの音が小さくなったな、というくらいに離れると次のステージの音が聴こえてくるってくらいの距離感なので、無理なく楽しめます。欲さえかかなければ、実にゆったりと音楽を満喫できるフェスです。
観に来ているお客さんは車で来られる距離の方が多いようです(といってもアメリカ人は長距離移動が平気みたいですけど)。フェスの開催日だけ市内に泊まって、翌週までの平日は一旦自宅に帰って仕事をして再びやってくるみたいな方々なんだと想像できます。日本から来た、というとびっくりする方が多いです。やはり地元に根付いたフェスなんでしょうね。
話をせんくらに戻しますと、せんくらのお客さんも、やはり地元に近い方々が多いのかな。仕事の合間にふらっと寄ったりもできる気楽さがあるかと思います。こうした地元に密着したイベントが毎年行われるなんて羨ましいですね。それもこんなに豪華な出演者から選び放題という。僕たちの出演枠は、音楽に触れるきっかけ、的な役割かと思いますが、音楽のいろんなあり方の中の一つを提示できたならば幸せだなあと思います。自分も出演時間以外はいろいろ観て周りたいと思っています。そうしたことには(もちろん)慣れてますし、とても楽しみです。
川口義之
みなさん、こんにちは。栗コーダーカルテットの関島岳郎です。せんくら初出場の一昨年、そして昨年に続き、今年も栗コーダーカルテットに声をかけていただきました。実にありがたいです!三回目のせんくらへの出演を楽しみにしております。
さて、せんくらと言えば、昨年はなぜか私がパンフレットにおすすめはしごコースやおすすめ公演を寄稿させてもらいました。多彩な公演の中からテーマを決めて移動時間も考慮しつつおすすめコースを設定するのは難しい作業ではありますが、自分の好きな類いの行いでもあります。楽しく文章を書かせていただきました。子供の頃に時刻表で机上旅行を楽しんでいた感覚に近かったのかもしれません。
(こちらにアーカイブがあります)
昨年のせんくらでは、自分がパンフレットでおすすめした公演をなるべく聴いて回ろうと考えました。とは言え、自分の出演もありますので、それほど多くの公演を聴けるわけではありません。食事や移動の時間も考慮しつつ綿密に計画を立てて、チケットが発売されるとすぐに予約をしました。以下、昨年の自分の動きを簡単に振り返ってみようと思います。
2022年9月30日
2022年せんくらの初日、この日の出演は日立システムズホール仙台シアターホールで「栗コーダーカルテット・ランチタイムコンサート」でした。本番を終え、仙台駅近くの宿に楽器を置いて身軽になり、再び日立システムズホール仙台シアターホールへ。リスナーとしてのせんくら2022初コンサートは「鈴木優人 チェンバロ・リサイタルⅠ」でした。この日の鈴木優人さんは2回のコンサートに分けてパルティータを全曲演奏するという企画。素晴らしい演奏を堪能しました。その後は太白区文化センター展示ホールに移動して「田村響 ピアノ・リサイタル バッハ&ベートーヴェン~ドイツ音楽を奏でる~」。これまた良いコンサートでした。このはしごで、バッハの曲をチェンバロとピアノで立て続けに聴けたのがよかったです。いろいろ発見がありました。
その後は南北線長町一丁目駅近くの「カレーの店 南國堂」で腹ごしらえ。前回2021年にも立ち寄った南インドカレーのお店です。
写真は、ご飯少なめながらせっかく来たのだからといろいろ欲張った注文。しかし、この店は健康に配慮した料理を作っていて、胃にもたれません。コンサートのはしごの合間に食べるのにぴったり。太白区文化センターから歩いても13分ほどです。
食事の後は再び日立システムズホールへ向かい「次期仙台フィル指揮者太田弦が奏でる 神尾真由子×仙台フィル」でチャイコフスキープログラムを楽しみました。神尾さんのチャイコンの何と素晴らしいこと!初日からこんなに楽しんでしまって良いのかなあ。
2022年10月1日
せんくら二日目の出演は「栗コーダーカルテット・ファミリーコンサート」、太白区文化センターで15時に終了。本来ならこの日に本番を終えたら東京に戻るのですが、僕はせんくらをもう少し楽しもうと、自主的に宿を押さえてもう一泊することにしていました。新しい宿にチェックインをした後、日立システムズホール仙台交流ホールで「上野耕平 無伴奏サクソフォン・リサイタル」を聴きました。なんとも圧倒的な素晴らしい演奏でした。無伴奏のコンサートは演奏者の本性が出ますね。
充実したコンサートを聴いた後はカレーが食べたくなるものです。ホールを抜け出して住宅街の中を歩くこと11分、「カリーハウスマシャーーラ」で食事をしました。このお店、昨年も足を運んだのですが、運悪く休みだったんですよね。今年は初めて入ることができました。せっかく来たのだからと色々トッピングしたら、こんなことになってしまいました。
見た目はすごいことになっていますが、美味しかったです。今年も行きたいなあ。
さて、食事の後は日立システムズホール仙台交流ホールに戻って「福田進一&長谷川陽子 デュオ・リサイタル」を鑑賞。バッハからピアソラまで幅の広い選曲で楽しかったです。ちなみにこの交流ホールはキャパが250人、昨日田村さんのピアノを聴いた太白区文化センター展示ホールはキャパが120人でした。大きなホールでは豊かな響きと共に楽器の音を楽しむことができますが、これくらいの小ぶりな会場で、演奏者の息遣いすら感じられるような距離で音楽を楽しむのもまた良いものです。
2022年10月2日
せんくら2022の最終日です。僕は夜に東京でライブが入っているので、会場にいられるのは14時くらいまで。あまり欲張らずに太白区文化センターで二公演を鑑賞するのみとしました。そして、その二公演の間隔は30分。コンサートの合間は時間がないので、会場に着いたらまずは昼食です。一昨日の南國堂まで行く時間の余裕は無く、ホール近くで簡単に食事をできるところはないかと探すと、ホールのすぐ隣のビルに「元祖ニュータンタンメン本舗」を発見しました。ニュータンタンメンは川崎市のローカルフードで、中華料理の坦々麺とは全く違ったものです。前から一度食べてみたいと思っていたのですが、ここ仙台で巡り合うとは!
はい、ニュータンタンメンはこんな感じでした。ニンニクと唐辛子の入ったラーメンにひき肉と卵がトッピングされています。この下世話な感じが最高です。
ニュータンタンメンの余韻が口に残る中、高橋絵里さんと佐藤亜紀子さんの「歌とリュートで出会う シェイクスピア・エリザベスⅠ世の時代・パーセルの歌」を展示ホールで聴きました。パーセル、ダウンランド、ジョンソンなどを交えたプログラム。お二人に関しては予備知識が無かったのですが、とても良いコンサートでした。こういう巡り合わせも地元出身の音楽家を大事にするせんくらならではでしょうね。爽やかな音楽で口の中のニンニクの香りも払拭されました。
その後、楽楽楽ホールで1966カルテットの「GET BACK ~ビートルズクラシックス~」を楽しみました。僕の場合、学生時代にクラシックのレッスンを受けていたものの、大学卒業後はクラシック以外の音楽の世界に入ってしまったため、クラシックのコンサートは自分の活動とは別の世界の音楽として楽しんでいます。しかし、この1966カルテットのコンサートは自分と同じ側のものとして聴いていました。もちろん、メンバーはクラシック奏者で高い技術を持っているのですが、有名曲をカバーする時の視点や考え方が興味深かったです。
昨年のせんくらはこのような感じで満喫させてもらいました。今年も自分たちの出演はもちろん楽しみですが、会場でどんな音楽に出会えるかも楽しみにしております。皆さんも楽しんで下さいね。
それでは、せんくら2023の会場でお会いしましょう!
関島岳郎
こんにちは。栗コーダーカルテット、3度目のせんくらです。今年も楽しく演奏します!!
カルテットですがメンバーは三人、でもアンサンブルは四人で……!?
当初のキャッチフレーズは「高い音楽性とそこそこの演奏力」。結成から30年近く経った今も奇跡的にその状態をキープしているグループ……かもしれない(当社比)。
これは去年のせんくらでのステージ写真。こんな感じで、4人ともいろんな楽器を持ち替えながら、オリジナルの楽曲や古今東西の名曲のカバーを演奏します!
左より栗原正己→川口義之→安宅浩司(サポートゲスト)→関島岳郎。写真提供:せんくら事務局(仙台市市民文化事業団)
今回のせんくらも2公演。大まかにはそれぞれ一般向け、ファミリー向けとしていますが、しばしば親子三世代がいっしょに楽しめる稀有な存在と言われることもあり、どちらのコンサートも老若男女、みなさんお楽しみいただけると自負しております(ともに3歳以上から入場可)。気楽な内容ですので合間の箸休めとしてもぜひ。
・31 栗コーダーカルテットのアフタヌーンコンサート
・62 身近な楽器で楽しく音楽!栗コーダーカルテットのファミリーコンサート
それぞれの会場でお待ちしています!
(そして演奏後は……メンバーともども、今年もせんくらの多彩なプログラムを満喫する気満々! 会場でもし見かけたら気軽にお声がけを……)
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おまけ:せんくら初出演、2021年の思い出の一枚
往路の新幹線。2021年10月1日の午後の列車で、コロナと台風の相乗(逆)効果か、ほぼ貸し切りの状態。それまで二ヶ月ほど続いた最後の緊急事態宣言がこの日から解除、せんくら2021の開催と折しもタイミングが一致しました。コンサートで聴く久しぶりの大きな拍手にも心が震え、自分にとってのせんくらは、宣言明けの象徴のような輝かしい存在となったのです。
栗原正己