6月中旬、仙台フィルは、文化庁〈文化芸術による子供の育成事業〉で近畿地方の小中学校、合わせて9校を訪問してきました。小中学校の体育館に、仙台フィルのフル・オーケストラがお邪魔する、という企画です。昨年は北関東・南東北エリアを、そして今年は近畿地方(滋賀、三重、和歌山、大阪、奈良)を担当することになりました。オーケストラのメンバーは、仙台から東北新幹線、そして東京駅で東海道新幹線に乗り継ぎ、近畿方面を目指しました。

「トラックがきたー!」
公演当日のことです。我々スタッフと、4トントラック2台が学校の敷地内に入ると、校舎の3階、4階の教室の窓から、そして2階の渡り廊下から、こちらに大きく手を振ってくる子供たち。子供たちは何週間も前、いや何か月も前からオーケストラが学校に来るのをとても楽しみにしていました。

↑大阪市浪速区の学校に、息をひそめる仙台フィル楽器専用車(通称=オケトラ)。
スタッフが、トラックに載せられた楽器や荷物を降ろしていると「すげぇー!」と、裏方スタッフの作業を興味深くみつめる男の子たち。「このトラック仙台から来たのー?何時間かかったの?すっげぇー!」と話しかけてくれる子供も。もう、演奏会が待ちきれない様子でした。そして開演の20分前に体育館に入ってくる子供たち。先生たちの指示で整列を終えると、オーケストラのメンバーが、本番に向けて音出しをする様子を見て、さらに興奮気味な子供たち。さあ、いよいよ本番です。

↑木管楽器メンバーによる楽器紹介。

↑テノール歌手:糸賀修平さんによる、テノール独唱「フニクリ・フニクラ」「オー・ソレ・ミオ」「カルメン/花の歌」
プログラムの最初は、ビゼー:歌劇「カルメン」より”第1幕への前奏曲”。
誰もが耳にしたことのある曲ですが、最初の「ジャン!」という音を聞いた瞬間の子供たちは、それまでガヤガヤとおしゃべりをしている子たちもみな「ビクッ」と体を震わせます。「いきなりビックリさせちゃってごめんね」と思う反面、ファースト・インパクトが大事だと、私は考えています。
[参考]ビゼー:歌劇「カルメン」より”第1幕への前奏曲”
https://www.youtube.com/watch?v=yT7V_92rMc4
※音量注意、間違えても電車の中でスピーカーから流さないようにご注意ください。
プログラムはそのほかにも、楽器紹介、スーザ:行進曲「星条旗よ永遠なれ」、指揮者体験コーナー、そしてテノール独唱による「フニクリ・フニクラ」「オー・ソレ・ミオ」、ビゼー:歌劇「カルメン」より”お前の投げたこの花は”、シベリウス:交響詩「フィンランディア」など。子供たちにとって「記憶に残る」演奏会を作りたい。90分のプログラム(15分休憩含む)ですが、大迫力のオーケストラ・サウンドに包まれる時間はあっという間に時間が過ぎていきました。
期間中のとある学校で、アンコールの前に「花束贈呈」および児童代表の「お礼の言葉」をいただく段取りがありました。子供たちは司会者から名前を呼ばれると前に出て、花束をマエストロとソリストへ渡しました。そのあと、お礼の言葉を言っていただく子にマイクが渡ったのですが…様子がおかしい。なかなか話し始めません。彼はオーケストラの前で緊張しているように見えました。

後から聞いた話ですが、先生曰く「(あの時、彼は)オーケストラの演奏に感激しすぎて、声を詰まらせてしまったようです」と。
それでも、アンコールが終わった後に、もう一度オーケストラの前に立ち、「今日は、遠くから来ていただき、ありがとうございました。楽器紹介がとても楽しかったです。演奏はとても迫力がありました。今日はありがとうございました。」と、お礼の言葉をいただきました。
子供たちにとって「記憶に残る」演奏会-
いや、我々仙台フィルにとっても、特に印象に残る演奏会であったことは間違いありません。
今年10月に和歌山県内、そして11月に大阪府の学校を中心に、この巡回公演は続きます。
「トラックきたー!」
その子供たちの「想い」を大切に、そして、多くの子供たちの笑顔と共に。
仙台フィル 中の人