ブログの第1回にも書きましたように、合唱劇、合唱童話などの作品は、舞台装置や照明、衣装といった要素を「せんくら・うた劇場」でも簡略化して上演します。そうはいっても、「せんくら・うた劇場」では、ここでしか実現できないことはないだろうかと思いました。そこで、アトリエ・コパンの力をお借りできないだろうかと考えたのでした。
アトリエ・コパンは、石巻で新妻健悦さん、新妻悦子さんご夫妻が主宰していらっしゃる民間の造形教育研究所です。たくさんの子どもたちが通ってきて、新妻さんから出されるテーマに従って、美術作品を創っていきます。その作品には、上手とか下手とかいうモノサシは関係のない、抽象的で自由な発想が溢れています。
「せんくら・うた劇場」という企画で、こんなことをやるのですけれど、アトリエ・コパンのお子さんたちの作品を飾らせていただけませんかという申し出に、新妻さんは快諾してくださり、第2回目の「せんくら・うた劇場」から、アトリエ・コパンの美術作品とのコラボが始まりました。新妻さんが、膨大な記録画像から演目に合いそうなものを選んでくださり、スライドで投影します。今年も、今年の演目「むくどりのゆめ」のために選んでくださった画像が間もなく私の手元に届きます。とても楽しみです。ご来場の皆様には、廣介童話、音楽とともに、アトリエ・コパンの美術作品を併せて楽しんでいただけたらと思います。
「2016年せんくら・うた劇場に寄せられたアトリエ・コパンの作品」
2017年せんくら、公演番号70番 せんくら・うた劇場 音楽童話「むくどりのゆめ」は、10月1日(日)14時45分~15時30分 エルパーク仙台/ギャラリーホールで開催です。ぜひお越しください。
そうそう!同じせんくらブログ「山中&草刈&庄司」で、草刈伸明さんが「せんくら・うた劇場」についても書いてくださっています!読んでみてくださいね。
吉川 和夫(せんくら・うた劇場)
「せんくら・うた劇場」では、これまでの3年間、宮沢賢治の作品を取り上げてきましたが、今年2017年にお聴きいただくのは、浜田廣介の「むくどりのゆめ」です。
童話作家・浜田廣介(1893~1973)は、現在の山形県高畠町の農家に生まれました。自然に囲まれ、母や祖母から聞かされた昔話に育まれた生い立ちは、廣介童話の礎を築き、「日本のアンデルセン」と称せられるほど豊かな作品をたくさん書き残しました。「むくどりのゆめ」は、「泣いた赤おに」「りゅうの目のなみだ」などと並ぶ廣介の代表作のひとつですが、この作品には廣介自身のつらい思い出が反映されていると言われています。
「ひろい野原のまん中の、たいそう古いくりの木のほこらに、むくどりの子が父さん鳥と住んでいました。今日もむくどりの子は、母さん鳥が帰ってくるのを待っているのでした。」
「きけばきくほど、ただ、なつかしく」、枯葉の鳴る音を表現したこのフレーズは、母が不在であることの廣介自身の哀しさを象徴的に言い表しているように思えます。むくどりの父と子を取り巻く野原、栗の木、ほこら、そして風と雪は、廣介の故郷である東置賜盆地の美しい自然を想像せずにはいられません。大声で嘆くのでも怒るのでもなく、廣介は静かにしみじみと語るのです。
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「せんくら・うた劇場」は、中村優子さん(ソプラノ)、髙山圭子さん(アルト)、原田博之さん(テノール)、草刈伸明さん(バリトン)という4名の歌手の皆さん、ピアノの倉戸テルさんとともに演奏します。今年はこのメンバーに、ソプラノの高橋まり子さんが加わってくださいます。高橋さんこそ、「むくどりのゆめ」を歌いたいという強い希望をもって、私に作曲を委嘱してくださった、いわば音楽童話「むくどりのゆめ」の生みの親です。
音楽童話「むくどりのゆめ」は、2015年9月20日、山形市の文翔館議場ホールで初演されました。ご覧いただく写真は初演のコンサートのチラシで、洋画家の樋口健介さんが初演のコンサートために描き下ろしてくださった絵を中心にデザインされています。
吉川和夫(せんくら・うた劇場)
こんにちは!作曲の吉川和夫です。
「せんくら・うた劇場」は、毎年大変ご好評をいただき、おかげさまで4年目を迎えることになりました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
そもそも「せんくら・うた劇場」って何なの?というところから、私の担当ブログを始めましょう。
音楽は、旋律や和音、響きの重なりの美しさを楽しむものですが、詩や文学と結びつくことによって、音楽と同時にことばの美しさや情感を味わうものもありますね。たとえば歌曲や合唱曲。それから、もっと大がかりになって、文学だけでなく美術や演劇と結びついたのが、オペラです。
私は、自分の作曲活動のひとつに合唱童話、合唱劇、合唱オペラを据えています。一般的なオペラは主役がいて脇役がいて、物語を、オーケストラや器楽とともに、個人の力で進めていきますね。オペラに登場する合唱は、村の人々や群衆、時には居酒屋の客や囚人だったりしながら、物語の幅を広げます。でも、あくまでも主役はフィガロであり、椿姫であり、ミミやヴォツェックです。
それに対して、合唱童話、合唱劇や合唱オペラでは、主役は「合唱=複数の人の声」です。役を演じるソリストが置かれたとしても、合唱は劇の背景や心情を歌い語り、物語を牽引する主役なのです。これは、古代ギリシャ劇の「コロス」の役割に近い考え方なのかなと思います。
日本では、指揮者の鈴木義孝さん率いる山形の合唱団じゃがいもや、栗山文昭さん率いる栗友会の合唱団が、合唱劇に積極的に取り組んでいます。林光さん、寺嶋陸也さん、萩京子さんといった作曲家が、合唱オペラを作曲してきました。長年にわたって、多くの宮沢賢治の作品を合唱劇として上演してきた合唱団じゃがいもは、今年第27回イーハトーブ賞を受賞しました。舞台装置や照明、衣装といった要素を簡略化することが多いのも合唱劇、合唱オペラ(そして少し規模の小さな合唱童話も含めて)の特徴です。演技も最小限に止め、あくまでも音楽とことばの力を中心に、物語をお客さまに伝えていきます。
「せんくら・うた劇場」は、このように合唱劇、音楽童話として作られた作品を、さらにコンパクトにせんくら仕様に編集して、重唱でお聴きいただくものです。小さなお子さんに、物語の「読み聞かせ」ということをしますよね。「せんくら・うた劇場」は、お子さんだけでなく大人にも向けられた「歌い聞かせ」と考えていただけると良いかなと思います。
次回は、今年とりあげる「むくどりのゆめ」という作品について、お話しましょう。
うつのみやレディースシンガース<晶>による合唱劇「手袋を買いに」
吉川和夫(せんくら・うた劇場)