クラシックギタリストの村治奏一です。
今日はこの場をお借りして、「せんくら」でも使用する僕の楽器についてご紹介いたします。
ヘルマン・ハウザーII世(1959年製)
Hermann Hauser II
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ハウザー家は、今現在は4世にあたるカトリン・ハウザーもギターの製作をしており、1882年生まれのヘルマン・ハウザーI世から100年以上続くドイツ・ギター製作の名家です。I世はかつてアンドレス・セゴビアも愛用していた時期がありました。
再来年に還暦を迎える僕のハウザーII世、実はせんくら公演のあと、大手術を予定しています。
施術箇所1つ目は、チューニングを司る「ペグ」。

オリジナルのペグ、出来ればこのまま使い続けたいところなのですが、60年前のものとあって、現代のペグに比べるとどうしても調弦の微妙な調整に難があるのです。当時と今ではペグの規格サイズが異なるため、一旦ペグを通すヘッドの穴を埋め、再び開けなおすという工程になります。
施術箇所2つ目「フレット」。

金属製のフレットも、長年弦と触れ合うことにより少しずつですが磨耗してしまいます。どれだけ調弦を正確に行っても、フレットの高さにバラつきがあれば押さえる場所によって音程が狂ってしまいますので、この度全てのフレットを新しいものに交換です。
施術箇所3つ目は、弦を結ぶ「駒」の穴。

クラシックギターの低音を司る4、5、6弦は、ナイロン繊維に、銀メッキした銅線を巻いた構造になっています。この為、弦交換の度にほんの僅かにですが、木材でできた駒の穴が擦れて、磨耗してしまうのです。15年くらい前に一度作り直していただいたのですが、そろそろ穴が再び広がってきてしまいました。
ハード面では色々と経年劣化が出てきた僕のハウザーII世ですが、そこから発せられる響きの面では年々、熟成が進んでおります。ハウザーII世の多くは、僕が見てきた限りでは、作りが頑丈で、その響きも”締まった”ものが多い印象なのですが、初代ハウザーが亡くなって間もない頃に作られたせいか、この楽器はI世の特徴を多く引き継いでいる気がします。すなわち非常に繊細な、華奢な作りで、しかしながら重厚な低音、高密度な中音、そして高い遠達性のある高音までどの音域をとっても隙がない印象です。
楽器によっては、といいますか、僕が愛用している別のとある若いギターは、楽器そのものの性格・個性が非常に強く、サウンドホールから出てくる響きと、僕が「こう弾きたい」と思うそれとに若干ズレがでるケースもあります。
しかしこの還暦間近のハウザーII世には僕のほぼどんな想いも、その通りに再現してくれる技量の高さと、懐の深さがあります。まだ10代だった頃からもう20年以上、この楽器を手放せずにいる理由はそこにあるのかも知れません。
ヘルマン・ハウザーII世の響き、どうぞお聴き逃しなく!
村治奏一