こんにちは。作曲家の吉川和夫です。
今年の【せんくら・うた劇場】「虔十公園林(けんじゅうこうえんりん)」(宮澤賢治原作・吉川和夫作曲)では、とてもすてきなコラボレーションが実現することになりました。
アトリエ・コパン美術教育研究所(石巻)主宰の新妻健悦、悦子ご夫妻のご協力を得て、小学生たちのアートを、演奏と併せて、スライドで投影するのです。
新妻さんご夫妻は、絵画や造型の制作を通して、表現することの楽しさを教えていらっしゃいます。
しかし、単なる絵画教室ではありません。
自由な発想と可能性を引きだすために、子どもたちには毎回違う「ミッション」が与えられます。
定規を使って直線だけで描く、絵の具を垂らす、厚く塗った色を引っ掻く、いがいが、でれでれ、トロトロといったオノマトペを形にする、新聞紙に描く、コラージュ、でたらめな漢字を作る等々…。
大人だったら硬くなった頭をかかえてしまうような「ミッション」を、子どもたちは、制約があるからかえって柔軟に発想できるのです。
生まれるほとんどすべての作品は抽象で、ここには「上手」「へた」の尺度はありません。
だからこそ、思いきり楽しく表現できるのですね。
アトリエ・コパンの活動は、今年41年目を迎えたそうです。
その作品は、仙台や東京をはじめいろいろなところで紹介され、昨年は横浜美術館などで開催された「ヨコハマトリエンナーレ」(日本を代表する現代美術展です)にも招かれたそうです。
新妻さんは、東日本大震災の津波でアトリエ、ご自宅とも大きな被害を受け、多くの作品が失われてしまいましたが、幸い写真ファイルは残りました。
【せんくら・うた劇場】とのコラボレーションについてご相談したところ、喜んで協力してくださり、「虔十公園林」にふさわしい作品を30点ほど選んでくださいました。
それらを拝見して、元は意味が付与されていない作品なのに、まるでこの公演のために描いてもらったようなものばかりであることに、驚き、感激しました。
アトリエ・コパンの子どもたちのアートは、「虔十公園林」の世界をより一層深めてくれるでしょう。
公演は10月4日(日)14時15分~15時、エルパーク仙台ギャラリーホール(公演番号69)です。
どうぞお楽しみに!
こんにちは。作曲家の吉川和夫です。
昨年大好評を頂いた【せんくら・うた劇場】を、今年も開催させて頂けることになりました。
公演は10月4日(日)14時15分~15時、エルパーク仙台ギャラリーホール(公演番号69)です。どうぞよろしくお願いいたします。
【せんくら・うた劇場】って?
小さなお子さんに「読み聞かせ」ということをしますよね。
【せんくら・うた劇場】は、歌いながらお話をたどっていく、いわば「歌い聴かせ」ということになるでしょうか。
子どもさんでも大人の方でも楽しんで頂ける公演になるよう、目下練習を重ねているところです。
今年のプログラムは宮澤賢治原作・吉川和夫作曲「虔十公園林(けんじゅうこうえんりん)」です。
「銀河鉄道の夜」や「風の又三郎」のようには知られてはいませんけれども、とてもすてきなお話です。
虔(けん)十(じゅう)は、ある日お母さんに700本の杉の苗を買ってほしいと頼みます。そんなたくさんの杉をどうするのだ?といぶかるお母さんとお兄さん。「買ってやれ。虔十は今まで何ひとつ頼みごとをしなかったのだから」とお父さんが言ってくれました。そして、家の後ろの大きな運動場くらいの広さの野原に杉苗を植えていきます。杉はすくすくと育っていったのですが、ある日野原の北側に畑をもっている平二が怖い顔をしてやってきました。虔十が植えた杉林は、どうなってしまうのでしょうか…。
虔十さんは、年齢不詳です。
「いつでもはあはあ笑っている人でした」という証言があります。
みんなから「少し足りない」と思われてもいたようです。
この話、私には、どこか「仙台四郎」という人の話と重なるように思えてしまうのです。
仙台では、飲食店の神棚などに、仙台四郎の写真や置物が飾られているのを見かけることがありますよね。
仙台四郎さんは幕末から明治にかけて実在した人物です。
知的障害によって言葉をちゃんと話すことができず、子どもが好きでいつもニコニコ笑っていた、立ち寄る店は必ず繁盛したので、どこの店でも温かくもてなしたそうです。
だから、四郎さんは今でも商売繁盛の「福の神」として祀られています。
ほほえましい都市伝説ですが、特別な支援が必要な人を地域の人々がみんなで守っていた証でもあるように思います。もちろん、地域の人々がみな寛容だったわけではなく、「虔十」を疎ましく思う「平二」のような人もいたでしょう。
虔十や平二にモデルがあったのかどうかわかりませんが、賢治が、今でいうノーマライゼーション、健常者と障害者とが区別されることなく生活できる社会の実現を見据えていたのは間違いありません。
限りなくお伽話風でありながら、同時に限りなく現実に隣接しているところがこの作品の凄さだと思います。
この作品は、1999年にオペラシアターこんにゃく座が初演したオペラ「虔十公園林」を、山形の合唱団じゃがいもが合唱劇として上演しました。
昨年に続き、今年も中村優子さん、髙山圭子さん、原田博之さん、髙橋正典さん、そして倉戸テルさんというとても素晴らしい演奏家の皆さんが、演奏を引き受けてくださいました。
重唱としては初めての演奏になります。
仙台四郎の伝説のように、虔十のお話もどうか長く伝えられますように。
そして、今回は、もうひとつすてきなコラボレーションが実現することになりました!
詳しくは次回に!
昨秋の「せんくら・うた劇場 ~45分でめぐる銀河鉄道の夜~」が懐かしく思い出されます今日この頃、いよいよ!待ちに待った!!「虔十公園林」の楽譜が届きました!!!
宮澤賢治氏の短編童話で、彼の亡くなった翌年の1934年に発表されたそうですが、私はこれまでまだ一度も読んだことがありません。
童話の始まりはいつもワクワクしますね。
「虔十はいつも縄の帯をしめてわらって杜の中や畑の間をゆっくり歩いているのでした。雨の中の青い薮を見てはよろこんで目をパチパチさせ青ぞらをどこまでも翔けて行く鷹を見付けてははねあがって手をたたいてみんなに知らせました。けれどもあんまり子供らが虔十をばかにして笑ふものですから虔十はだんだん笑はないふりをするようになりました。風がどうと吹いて‥・」
こうして楽譜を読み進んで行くと、宮澤賢治氏の言葉がとても生き生きとして、まるで吉川和夫先生の音楽のようです!いや、音楽が言葉のようなのです!
ふと、そんなことを考えては‥・よく譜読みが止まってしまうのですが。
さて、いつも笑顔の虔十はどうなるのでしょうか?童話の続きがとても気になって、譜読みの再開で~す!
10月4日のせんくら・うた劇場にぜひいらしてください!
(2015.08)