10年目の記念すべきせんくらに出演できること、嬉しく思います。この機会に、ヨーロッパのアルプス地方を中心に歌われているクラシック本場の地の民族音楽・ヨーデルを一人でも多くのみなさまに楽しんでいただきたいと願っております。
さて、何からお話しましょうか?アルプス地方では、雪解けとともに牧童たちがチーズを作るために牛を引き連れて山のアルム(牧草地)に登る頃からヨーデルの季節の始まりですが、私どもヨーデルチロリアンも、冬はほとんど屋内での演奏会のみで、屋外は5月ごろからの開始となります。てなわけで、今年も5月末行ってきました乗鞍高原&上高地演奏。長野県は日本アルプスと言うだけあってよく演奏依頼を受けるのですが、この時期が一番好きですね。山にはまだ雪があって、新緑はそんなに濃くなく、日本ってホントにきれいだな、と思います。
乗鞍高原演奏は開山祭で、別名すもも祭りというんだそうです。かつての牧場あとで、食べた李(すもも)の種から李の木がたくさん生えて来たんだとか。そこから見える乗鞍岳は実に美しい。この地は松本市に合併する前は安曇村と言って、40年以上前にスイス・グリンデルワルト村と姉妹都市を結んだ関係で、いわば日本のアルプス音楽のメッカでもあり、当時はかなりの登山客やアルプス音楽フリークで付近のペンションは賑わったそうです。冬はかの猪谷千春氏が監修した「いがやスキー場」も稼働しており、少し前はキムタク主演のラブジェネレーションの撮影地でもありました。
ところが日本一の高地を走る乗鞍のスカイラインが、環境を守ろうという住民たちの希望で岐阜県側に抜けられなくなった12年ほど前から客足が徐々に落ち、スキー場も閉鎖、今は住民の皆様も厳しい環境の中で観光客誘致に頑張っておられます。ここにある小中学校では授業でグリンデルワルトから贈られたアルプホルンを練習・演奏しているのですよ。
一方、山ひとつ越えた上高地は言わずと知れた日本有数の観光地。本場のアルプスに負けない風景が広がります。ここは乗鞍高原と違い定住住民はいないのですね。冬になると閉鎖となります。中国からも大勢の観光客が押し寄せており、今年は開山祭の前に外国人のツアー客ばかりを受け入れざるをえなかったようですよ。
近くにありながら状況が異なる両地域。アルプス音楽のメッカというプライドを持って頑張る乗鞍高原ペンションに拍手を送りたい。みなさまも上高地に行かれたら、乗鞍のペンションにも是非宿泊してみてください。アルプス音楽を愛し、かの地域をサポートする者からのあなたへのお願いです。
ヨーデルチロリアン 佐藤憲男
