おしまいに、今回の「せんくら」では、梅田俊明指揮/仙台フィルハーモニー管弦楽団との初共演が楽しみです。
曲はおなじみのロドリゴ「アランフェス協奏曲」。
私は今夏、アメリカ公演(西海岸メンドシーノ音楽祭)でもこの協奏曲を弾いてきました。
もう100回以上の本番を重ねた曲ですが、共演する指揮者やオーケストラによって毎回新しい発見があります。
今回のアランフェス協奏曲では、ドイツ人の親友シュテファン・シュレンパーが2004年に製作した専用アンプ付きのコンチェルト用ギターを使用します。
ギター製作家になる前は、サウンド・エンジニアをしていたというシュレンパーは、電気的ではない自然なサウンドの増幅装置と、それに適したマイクロフォンを内在したギターの開発を進め、この10年ほど私のヨーロッパでの大きな仕事を手伝ってくれています。
彼のギターは増幅に頼らずとも充分に大きな音が出せるのですが、さらにサウンド・ホールの中心にある高感度マイクと弦を止めてあるブリッジの下に埋め込まれた感圧素子の2系統からの信号をアンプ内蔵のスピーカーに送り込んで鳴らします。
これによって、オーケストラとの対話にも充分に耐えうる大きな音のギターを実現しました。
ロドリーゴのアランフェスは、
10月5日(土) 19:45~20:45 イズミティ21/大ホール です。
また、ガラ・コンサートでは愛弟子の鈴木大介君と、10月6日(日) 14:45~15:45 イズミティ21/大ホールで共演します。
こちらは映画音楽、ニーノ・ロータとモリコーネをお届けします。
3日にわたって、文章ではとても説明出来ない3つの楽器の音色を説明してきましたが、
仙台の皆さん、是非その耳で確かめにきて下さいね。
「せんくら 2013」でお会いしましょう!
福田進一(ギター)
さて、もうひとつ私の演奏するギターは「19世紀ギター」と呼ばれている、1800年~1860年の間に使用された小ぶりのギターです。
この楽器は「ルネ・フランソワ・ラコート」というフランスの名工が1840年頃に製作したものです。
この時代のギターは、前回も書きましたが現代のギターの元祖アントニオ・デ・トーレスが多彩な音色を出せるように開発するより遥か前の楽器で、多彩な装飾が施されていますが、内部は非常に単純な構造をしています。
表面の板を振動させる力木は、数本しかありません。
ほとんど、本来の木が持っている自然な力で鳴っているような楽器です。
そこには、現代人のロマンチックに加工された音ではなく、古典期の人間が持っていた健康的かつデリケートな、まさに心の琴線に触れる温かい音を出す楽器なのです。
私がこの楽器を手に入れた1991年の段階では、世界中に数人しか真剣に取り組むギタリストはいませんでした。
22年の月日が流れ、古楽の研究も進み、聴衆の理解も深まり、この「古くて新しい音」の出る楽器のファンも増えているのは喜ばしいことです。
今回のプログラムは19世紀を代表するギター奏者・作曲家のフェルナンド・ソルを特集します。
スペインのバルセロナに生まれ、様々な音楽をモンセラート修道院で学んだソルは、19才でパリに出て最初はバレエ音楽の作曲家として名を成します。
後に、ギター教本や「魔笛の変奏曲」をはじめとする数々の名曲を生み出しますが、ロンドンやモスクワなど、旅の連続のその人生は決して楽ではありませんでした。
ソルが愛用した名器「ラコート」を使ってのコンサートは10月6日(日) 10:45~11:30
日立システムズホール仙台(青年文化センター)/交流ホール) です。
魔笛、グラン・ソロなどの名曲とある貴婦人の死を悼んで書かれた
秘曲「悲歌風幻想曲」などを聴いて頂きます。
福田進一(ギター)
仙台の皆さん、お久しぶりです!
ギターの福田進一です。
今年も「せんくら」の季節がやってきました。
思えば、第1回せんくら、その最初の演奏会が私のソロ・リサイタルでした。
あれから8年、震災の年だけは参加出来ませんでしたが、毎年このフェスティバルに常連のように出演させて頂けること、今や私にとって大きな楽しみと喜びとなっています。
今年はどんなプログラムを弾こうか、どんな音楽家と共演しようか、昨年のあの熱心なお客様にまたお会いできるだろうか…
いつも「せんくら」が始まる前に様々な期待感が胸をよぎります。
さて、今年は3種類の異なるギターを使い分けての参加となります。
まず、
バッハ・リサイタル(10月5日(土) 16:15~17:15
日立システムズホール仙台(青年文化センター)/コンサートホール)
では、1947年に製作されたドイツの名器「へルマン・ハウザー」を
使用し、オール・バッハのプログラムを聴いて頂きます。
えっ?ギターなのにドイツ製が良いの?と思われるでしょうね…
そうなんです。
現在、世界的に最も評価も高く、値段も高いギターはドイツの「ハウザー1世」なんです。
ほんの数年前にアメリカのオークションで落札された1951年のハウザー1世は、軽く一戸建てが買えるほどの史上最高額がつきました。
この名器ハウザーの誕生にはギターの巨匠アンドレス・セゴビアの助言が関わっています。
1925年頃にヨーロッパ・ツアーを行ったセゴビアは、当時まだ32歳でしたが、すでにギターの巨匠としての地位を確立しつつありました。
ミュンヘンを訪れたセゴビアは、これまでウィーン派の伝統的なギターを作っていたハウザーにスペインの名器であり全てのギターの元祖とも言えるアントニオ・デ・トーレスの存在やその流れを汲む自分の楽器マヌエル・ラミレスなどの「音」を伝え、研究するよう示唆したのです。
それからわずか10年後には、ハウザーの製作技術は、セゴビアがレコーディングでのメインの楽器として使用するレベルにまで成長しました。
特に、1936年に出来た逸品は「もう頼むからこれ以上のギターを作らないでくれ」と、セゴビアに言わせしめ、彼はその楽器がライバルの手に渡るのを恐れたのだとも言い伝えられています。
今回のリサイタルで使用するのはさらに10数年後の1947年作のハウザー、私にとっても、これ以上の音のギターを弾いたことはありません。
ライフ・ワークにしているバッハ作品のなかから、チェロ組曲、ヴァイオリン・パルティータ、そして名曲シャコンヌを中心にしたプログラムをお届けします。
福田進一(ギター)