タブラトゥーラと波多野睦美(7)

2008.09.13| タブラトゥーラと波多野睦美

「楽器の傍ら」

波多野睦美(メゾソプラノ)

弦楽器の隣で歌うのは これはもう くつろぎです

これまでどれほど絵画の中で描かれてきたことか

ワインや果物の置かれたテーブルで
居間の椅子で
ピクニックの草の上で

楽器奏者は弦を合わせ 歌い手は楽譜をのぞきこむ

戯れの浮気心 苦しい恋 娘に忠告する母 権力者への諷刺
どういう歌であろうと ギターやリュートで歌われる時には
打ち明け話を聞いているような 近しいものとなる

今年は つのださんの奏でる
甘酸っぱい音のする19世紀のギターと一緒に歌います
シューベルトが 友人たちと騒ぎながら または
ひとりベッドの中で つま弾きながら歌っていた
そんな空気を味わっていただければ 幸いです

(波多野睦美* Photo:Yuriko Takagi )

 

タブラトゥーラと波多野睦美(6)

2008.09.12| タブラトゥーラと波多野睦美

「19世紀ギターのこと」

つのだたかし(タブラトゥーラ/リュート・ラウタ・ウード)

私は指で弾く楽器が好きだ。
楽器はそれぞれ形が違うと音も変わる。
弦が変わるとまた変わる。
それは時代によっても大きさによっても変わる。

400年前のギターがある。
その50年後にはまた違う楽器が出現する。
いやそんなに待たなくても5年もたてばもう新しい楽器が考案され、
流行し、代が替わってしまう。

17世紀から18世紀に宮廷などで使われた5複弦のギターは、
18世紀の終わりに出現した6単弦のギターにとって替わられる。
弦長も長く、共鳴胴をより大きくしたことによって音量も豊かになり
6単弦にしたことによって調弦や楽器の扱いが飛躍的に楽になった。
この新しいギターをその時代の人々は大いに歓迎し、大流行が始まった。
まるで20世紀にLPがCDに代わったような急激なことだったと思える。

今から200年ほど前、19世紀初めにウィーンで活躍した楽器製作家J.G.シュタウファーは
ある時一梃のギターの注文をうけた。
彼によって丁寧に作られたそのギターは,現在ウィーンのシューベルト記念館で、
シューベルトの遺品の一つとして保管されている。

せんくらで演奏するドイツリュートは、このシュタウファー作の古いギターで
聴いていただく。

タブラトゥーラと波多野睦美(5)

2008.09.11| タブラトゥーラと波多野睦美

「タブラトゥーラでない私」
山崎まさし(タブラトゥーラ/ビウエラ)

タブラトゥーラに入らないか?
4年前つのだたかし氏に誘われ、1も2もなく承諾してしまった。

承諾してしまってから、どっと不安が押し寄せて来た。
私の本業はフラメンコギタリスト。いつも唄や踊りとワイワイやっている。
タブラトゥーラのメンバーは、もちろん皆クラシック畑、しかも生え抜きの人達。クラシックと聞いただけで全身が硬直するのに、大丈夫なのか? 譜面もちゃんと読めないのにやれるのか? いやいや、厳粛なクラシックの世界を覗いて見るのも悪くないな。このメンバーと一緒に音楽ができるなんて、素晴らしいことだぞ。
大きな不安とそれ以上の期待の中、めでたく入団となった。団長はじめ、ちょっと変わってるけど優しいメンバーのお陰で何とかやれている状態。

かれこれ結成25年になるタブラトゥーラ。

新入りの私はまだまだタブラトゥーラな人にはなれていない。
コンサートにいらして下さい。

踊りながら演奏するメンバーの後ろでおとなしくビウエラを弾いている私を見ることができる。
もうひとつ。タブラトゥーラは筋金入りの辛党ぞろい。

甘党の私、やはりタブラトゥーラな人ではないかも。

タブラトゥーラと波多野睦美(4)

2008.09.10| タブラトゥーラと波多野睦美

「紅い花とトロキルスとファイアマンと僕」
江崎浩司(タブラトゥーラ/リコーダー)

タブラトゥーラで採用して頂いてるオリジナル曲に、僕の作った「紅い花」という曲があります。以前タブラトゥーラが音楽を担当した「花よりもなほ」という映画でも、死んでしまった小鳥のお墓を作るシーンで採用されました。この曲は、その映画のために書いた曲ではないのですが、たまたま映画の話が来る前の新作だった曲で、おまけに映画タイトルに含まれる「花」が曲名にも含まれていたため「おお!」と喜びました。

この曲は自分で言うのもなんですが、失恋から生まれた曲で、絶えず続く伴奏系の音の運びがその彼女の名前になっているというものです。実にせつないなぁ。彼女はその後すぐ結婚したという情報がありましたので、映画の小鳥のお墓のシーンは、彼女への想いが死んでしまった感じがしてさらに現実味がありました。実に、実にせつないです。

さて、元気をだして次の作品。

「トロキルス」という曲は、とても速い曲です。ライヴでは、耳にも目にも速い。トロキルスはラテン語でハチ鳥。一秒の間に、ものすごい回数羽ばたいて空中で止まることもできる。もちろん目にもとまらぬ速さで駆け抜けることもできます。やったー! こうなったら、生き生きと飛び回って、こっちの花の、あっちの蜜を、好きなだけ頂きましょう!

次の作品は「ファイアマン」。

最新作なので、まだ録音もしていません。もともと汽車が走るイメージで作りました。汽車の機関室で、汗をかきかき、木炭を火にくべる男。ポー!っと汽笛がなったら重い汽車は徐々に速度をあげる。煙もくもく、汗をかきかき。速度をあげるためにスコップをつかみザクザクとくべる。ポー!っと汽笛。男はあまりの熱さで意識がもうろうとしてくる。

汽車はスピードをあげ、車輪がものすごい音をたてる。煙、汽笛、汗、炎、車輪音。

客室では、いちゃいちゃしてアイスクリームを食べてるカップルがいるかもしれないのに、男は黙々と働くのです。たぶんそうする理由があるのです。頑張れよ! ひたむきに頑張るんだ! そうすれば必ず報われる!

ん〜、こういう作品なんですよ、江崎作品は。

こういう紹介が一番わかりやすいと思います、というより、僕のことだから、そうなのです。

END

タブラトゥーラと波多野睦美(3)

2008.09.09| タブラトゥーラと波多野睦美

「タブラトゥーラ 海外ツアーの思い出(エジプト編)」
近藤郁夫(タブラトゥーラ/パーカッション)

今までにカナダをはじめ、エジプト・イタリア・スロベニア・オーストリア・インド・バングラデシュ・パキスタン・韓国とさまざまな国でコンサートをすることができました。ケベックの美しい町並みやローマの遺跡、フィレンツェの教会、スロベニアの湖上の教会、バングラデシュの市場等々、いくら書いてもきりがないぐらい思い出はたくさんありますが、一番印象に残っているエジプトについて書くことにします。

エジプトへは直行便がないので、フランクフルトを経由して向かわなければならない。季節が冬だったので、朝8時に朝食をしようと起きたら外は真っ暗! 車のライトを点灯して通勤する光景が印象的でした。
そんなこんなの後(かなり間を省略)、飛行機でカイロへ向かう機内でも少々驚かされた。パーサーのお兄さんがサービスでワインを持ってきてくれて、何度かくるうちに、座席のアームレストに半座りになり、ワインをついでくれた。それも初めて見る光景だったが、その後自分でグラスにワインをついで飲んでいるではないか! おまえも飲むのか??? まっ!ところ変われば何とやらということで、これもありかと半ば強引に納得。しかしその後コクピットのドアを開けて中を指さす。ん?とのぞき込むと「クールでしょう」と微笑みかけられてしまった。私もにっこり微笑んでしまった。ちょっとまて〜!普通開けるか! ハイジャック対策は! テロ対策は!?

そんなこんなでまもなくカイロに到着。窓から外を眺めると、一面煉瓦色の景色が広がっていて妙に高揚したのを思い出す。到着後、高速を通ってホテルに向かう途中、ここでも認識を覆されることになる。

 

ん?今人がいたような・・・? 高速道路のはずだよな? 市内に近づくにつれ疑問は確信となった。やっぱり人が歩いている。それも高速道路を横断しているではないか。赤ちゃんを抱えた母親(事実)が・・・、松葉杖の老人(事実)が・・・、しかし車は減速することなく突っ走る(高速道路だから)。

 

さらに市街に入り驚愕させられることになる。3車線の道路に6列の車列ができており、交差点内は何が何だか解らない状態になっている。我々の乗った車も例外ではなく赤信号に平然とつっこんでいく。 当然歩行者もたくさんいる 。すっすごい!すごすぎる!!!またほとんどの車のサイドミラーがないので、ガイドの方に尋ねてみると、最初はついているのだがすぐ無くなってしまうらしい。そりゃそうだよな、なんせ車幅間隔が5〜10cmぐらいでばんばん走っているのだから、ミラーなんかすぐ飛ばされてしまうのも当然といえば当然。僕は車の運転が好きなので大抵の移動先では運転してみたくなるが、この国だけはちょっと無理そうだ(完全にビビリモード)。このような環境を楽しみつつホテル到着。

当然ながらピラミッドを見に行く。街中を車で走ることしばし、突然街が切れると同時にサハラ砂漠が広がりピラミッドがそびえ立つ。僕らが普段目にするピラミッドの映像は、広い砂漠の中にそびえ立つ印象があるが、意外なことにぎりぎりまで街が押し寄せている。これは結構驚いた。車を降りてピラミッドに向かう途中にたくさんの土産を売る人たちに遭遇する。みんな日本語らしき言葉で「ジェンブデシェンエン」(全部で千円)と叫びながら近づいてくる。その勢いに負けそうになりながらも、ピラミッド内部に入る事ができた。映像や雑誌で見たことはあるのだが、実際中に入ってみるとそのミステリアスな空間に圧倒されてしまった。

さて、いよいよコンサートに関しての話です。会場はハンハリーリにあるスルタン(昔の権力者)の建物で行ったのだが、異常な盛り上がりをみせた。競演することになっていた地元の音楽大学で打楽器を教えているヤーセル氏にパーカッションソロでのリズムについてアドバイスをもらい、本番で演奏してみたところ、会場が一気にわぁー!と手拍子と歓声の嵐になってしまった。いったい何が起こったんだろう、こんな体験は今までに経験したことがない。演奏している本人が、鳥肌が立つほど一番驚いてしまった。太鼓たたきで良かったと実感できた一時でした。また聴きに来てくれた人たちもおおらかで、ちょっとダンサブルな曲になると踊り出すおじいちゃんや、静かな曲にもかかわらずスタスタとステージを横切ってトイレにいってしまうお客様。

まじですか〜〜〜!僕のコンサートに対する認識はガラガラと音を立てて崩れていくのでありました。

てな感じで、楽しくコンサートを終了することができました。

とにもかくにもカイロはエネルギッシュでエキサイティングな街でした。

タブラトゥーラと波多野睦美(2)

2008.09.08| タブラトゥーラと波多野睦美

「タブラトゥーラな一日」
田崎瑞博(タブラトゥーラ/フィドル)

アンコールまでの演奏をすべて終えたら、お客さんとごあいさつ。半端な数ではない楽器達を片付けると、やっと打ち上げだ。打ち上げの多くは、その公演を支えてくださった方達との楽しい交流の場である。人数が多い場合は、私たちメンバーはなるべくばらばらに席に着くようにするのが習わしになっている。その方が、なるべく多くの人と接することができるからだ。しかしそれにはまた、別の理由もある。リハーサル、公演、旅行と続いたメンバー同士の会話よりも、新たな友人ができるほうが数段楽しいからだ。タブラトゥーラはもう結成24年。性格のすみずみまで知り抜いた面々とのやりとりは、たとえお酒という緩衝材を用いたとしても、もうあきあきしているのだ。さらに言えば、新たな友人に対して、自分の悪癖などを脇から言いふらされたりでもしたら大変だ。

この手のメンバーばらばら感は翌朝にも続いていて、ホテルの朝食で顔を合わせても同じテーブルには着かない場合が多いし、ましてや市内観光に誘ったりなどは絶対にない。確実に全員の顔が揃うのは、昼過ぎの、会場リハーサル開始時刻である。そこではさすがに多少の会話があって、昨晩は何時に寝たか、とか、さっきの昼ご飯はどこで食べたか、くらいの愛想は言い合うことになっている。その際に、この半日の間で起こった自分の不手際(忘れ物をした・ずっこけた・ちょっと言えないことがあった)については、積極的に報告しなければならないことになっている。あるいは、他のメンバーがその失敗を目撃していることもあり、本人が黙秘していたとしても、その場合は微に入り細に入り語られる。他のメンバーの失敗談ほど楽しいものはなく、当の本人はともかく、あとの4人のテンションは一気に上がることとなる。つまり、一瞬にしてチームはひとつになり、それは、そのあとの演奏のノリのよさにまで影響することが、ままある。

さて、そんなこんなでリハーサルが盛り上がると、そのまま本番へと突入。お客さんと対面し、団長のあいさつから始まっての演奏は、まさに楽しさの連続だ。この時ばかりは、たとえ自分がなにか落ち込むような失敗があったとしても、すっかりそれを忘れて音楽に浸ることができる。特にお客さんの喝采はなによりのご褒美だ。

そして公演が終われば気分よく打ち上げとなる。しかしそこでの話題は、昨晩の自分の失敗談で花が咲くこともあるから要注意だ。他のメンバーは、この時とばかり攻撃の手をまったく休めようとせず、かなりの誇張をもって容赦なく仲間を叩きのめすのだ。

このようにタブラトゥーラは、私を有頂天にさせたり、大窮地に陥らせたりする。どっちの割合が多くなるかは、なんのことはない、自分の心がけ次第なのだ。

タブラトゥーラと波多野睦美(1)

2008.09.07| タブラトゥーラと波多野睦美

「タブラトゥーラ 新曲審査会」
つのだたかし
(タブラトゥーラ/団長、リュート)

タブラトゥーラは、リコーダー、リュートやフィドルなど、中世ルネサンスの時代の楽器や、シルクロードの民族楽器を使った「古楽器バンド」。プログラムは中世・ルネサンスの舞曲とオリジナル作品となっているが、今や80パーセント以上がオリジナル作品である。
初めてオリジナル曲を作り始めたのは、2枚目のCD「タブラトゥーラ2」から。やがてメンバーそれぞれが作っている曲が本当に使える曲なのか、それとも基準に満たなくて「没」にすべきかを全員で音にしながら決めていく審査会というのが始まった。
タブラトゥーラの新曲を作るにあたって、守らなければならないのは二つの規則だけ。
その1は「ナントカ風」にならないこと。つまり演歌風だったり、激しくハワイアン風だったり、中国風だったりしてはならないのである。
その2は機能和声風にならないこと。つまり、ドミソ〜ファラド〜ソシレ〜とか、コードで伴奏できるようになってはいけないのである。

いよいよ審査会、お白州(しらす)の上での吟味の日になると、裁かれるメンバーはナントカ温情のあるお裁きを願って小さくなっている。他のメンバーは大岡越前守と化して、そこここと罪状を責め立ててくる。まして順番で罪人にも奉行にもなるわけだから自分の曲がすでに没にされたお奉行様の吟味は特別に厳しい。
そのうち「エエイ! まだシラを切る気か!」とか言って桜吹雪のイレズミまで見せてしまうわ、遠島を申し渡すわ、しまいにゃ「市中引き廻しの上打ち首獄門!」などと叫ぶのである!
イレズミのあるのは遠山の金さんだぞ〜! ヤジが飛ぶ。

かくして厳しい吟味をすりぬけて無罪放免でステージにあがれる曲は? 今回はいかに?

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