今回の平井プロデューサーからの条件の1つは「必ず譜面を見て弾いてください。」ということでした。「こういう企画だと、暗譜して自分の中に完全にいれてしまって歌うよりも、より客観的な表現になるし、事実最高の感銘を受けたリサイタルは譜面を見て弾いている例が多い。」とのご説明でした。
暗譜して弾くと、お芝居のような感じになり、譜面を見て弾くと朗読に近い感じになるような気がいたします。確かに作曲家の厳然たるテキストがあるわけですから、自分の歌にし過ぎるよりも朗読的にやるほうが客観性は増しますね。
リヒテルのドキュメンタリーを拝見しましたら、やはり「譜面は見ながら、きっちりたどった方が良い。」とおっしゃっておられました。
これは演奏家にとっては楽なようで実にキツイご指示です。「暗譜するという労力」で、すりかえられない、本当にいい音楽をしなければいけないので。クオリティに対するプロデューサーの徹底性をここにも見た思いがいたします。
ところで、せんくらオフィシャルサイトも本格的で凄いですね。
皆様の本格的なご準備に見合うだけの楽しいコンサートにすべく、フェスティヴァル会場でも緊張した顔でうろうろしたりしないよう、万全の準備でさわやかに仙台いりしたいと思います。
お客様の皆様、丹野さん他昨年もお世話になったスタッフの皆様とお会いできるのが、本当に楽しみです。では、そのときに。
雄倉恵子(ピアノ)
ドビュッシー 喜びの島〜のだめカンタービレ
シューベルト ピアノソナタ第16番 第2楽章〜のだ めカンタービレ
モーツァルト トルコ行進曲〜のだめカンタービレ
「喜びの島」はマラドーナ・ピアノ・コンクール第3次予選でのだめが演奏した曲です。確かに、装飾音やリズムの変化といった技巧を駆使して多彩な色を出すことが要求される曲で、コンクールの予選にはぴったりといえばピッタリな曲です。
次の「シューベルト ピアノソナタ第16番 第2楽章」こそは、のだめの大ヒットが無ければ、普通は全く知られていない曲で、のだめによって救い出された最たるもののような曲です。サン・マロのリサイタルでのだめさんはメインとしてこのソナタをお弾きになったそうで、ただでさえ、渋いシューベルトのピアノソナタの中でも最も渋い部類のこの曲が、よりによって「せんくら」で紹介されるのもおかしいです。
シューベルトといえば、偶然私がシューベルト記念館で自筆譜を見ている写真があったのを思い出したので、本日使わせていただきました。
で、フィナーレはトルコ行進曲。昨年ちょっと違った装飾音符のつけ方をしたりしてみましたので、今年はまたどう変えようか?と思ったり、「どなたも1年前のことは覚えておられないだろうから、そのままでいいか?」と思ったり、あれこれ思案中です。
雄倉恵子(ピアノ)
モーツァルト キラキラ星変奏曲〜のだめカンタービレ
ベートーヴェン 悲愴ソナタ第2楽章〜ラブレボリューション
ショパン 別れの曲〜101回目のプロポーズ
坂本龍一 メリークリスマス・ミスターロレンス〜戦場のメリー
クリスマス
〜 のだめカンタービレなど−あ!あの場面!ドラマのピアノ名曲集〜という素敵なコピーをつけていただいた、もう1つのプログラムの前半です。
まずは、のだめがサン・マロで開いたリサイタル曲から、モーツァルトのキラキラ星変奏曲。主題はやさしいですが、段々に難しい変奏曲がでてくる、なかなかややこしい曲です。
悲愴は、ラブレボリューションでもでてきましたし、「のだめ」でも、千秋がのだめが弾いている様子を”悲惨”と言った曲です。
「別れの曲」ショパンの作品の中でも、それこそ、どこかで聴いたことのあるきれいなメロディーで始まり、鬼のように難しい中間部を経て、またきれいな
メロディーに戻ります。あの中間部さえなければ、いい(演奏家にとって都合のいい)曲なんですがねー。
前半最後は「戦メリ」です。確かに日本の作曲家の作品のなかで、せんくらみたいなフェスティヴァルにぴったりの、ポピュラーな小品てあまり思いつきませんね。やはり坂本教授は偉大ということでしょうか。
雄倉恵子(ピアノ)
ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ〜東京電力
坂本龍一 エナジーフロー〜リゲイン
サティ ジムノペディ第1番〜国税庁・税を知る週間
サティ ジュ・トゥ・ヴー〜花王エッセンシャルシャンプー
「CMのピアノ名曲集」後半はフランス系の作品です。坂本さんもドビュッシーやラヴェルなどフランス音楽への親近感はよく表明されておられますし。
ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、彼が学生中に書いた作品で、後に自身で編曲したオーケストラ版もあります。ホルンのソロが印象的でこちらのほうが有名でしょうか。ともかく学生時代にこの程度書けないと大作曲家にはなれないんでしょうね。
坂本さんの作品は、リゲインのCMに使われて大ヒットした、ピアノソロ曲としては一番知られたものだと思います。そういえばせんくら2007では坂本作品でチェロを使うときにいつも登場される藤原真理さんもご出演なさいますね。
最後にサティを2曲。ゆったりした単純なリズムで初心者が初見で弾けそうなジムノペディ1番。それでいて、ずっと皆に愛されているのですから、「単純でも名作」の典型でしょう。
ジュ・トゥ・ブーはI love youで、シャンソンとしても歌われています。「せんくら」らしいジャンルの壁を意識しない楽しい作品が、この会の後半には並んでいます。後は演奏さえよければ、とても楽しい会になるんでしょうねー〜。
ふー。
雄倉恵子(ピアノ)
本日からは実際に弾かせていただく各曲についてです。
「CMのピアノ名曲集」の前半は次の各曲です。
イタリア協奏曲第1楽章〜セブンイレブンおでん
ベートーヴェン エリーゼのために〜ツーカーフォン
シューベルト 楽興の時第3番〜ヤマト運輸クール宅急便
ショパン 幻想即興曲〜カプコンクロックタワー
ショパン プレリュード第7番〜太田胃散
ショパン 子犬のワルツ〜JA福岡博多万博ネギ
バッハのイタリア協奏曲は初心者でもよくレッスンで弾かされますが、大家のリサイタルでも取り上げられる、間口の広い曲です。
バッハの鍵盤作品は、作曲の訓練のための練習曲でもあり、複数の声部
がからむポリフォニック音楽です。それをきちんと弾き分けるのはなかなか大変で、仲間内では「えっ!本当に人前でイタリアンコンチェルト弾くの?」などと言われることもある作品です。残響の少な目のホールで各メロディーラインのからみをお聴きいただくのはお客様には楽しいでしょうけれどもね。
ベートーヴェンの「エリーゼのために」はバガテルというベートーヴェンが随分書き残した小品のジャンルの中の1曲です。ピアノソナタが小説としたら、バガテルはエッセイのようなもので、私は正直に言えばバガテルのほうが好きかもしれません。
ベートーヴェンに対してモーツァルトのほうが天才のイメージにぴったり来そうですが、「エリーゼのために」をはじめバガテルを弾いているとベートーヴェンもいかに天才かが手に取るようによく分かります。
シューベルトの「楽興の時」もベートーヴェンのバガテルに近い自由な形式の小品です。私はシューベルトは本格的なソナタのほうが好きですが、この楽興の時3番ももちろん名曲です。
なお、本日掲載されている写真はシューベルトさんご本人がお使いになっていたピアノです。
ショパンの3曲は、それこそ「せんくら」らしくお馴染みのものばかり。特にプレリュードは、ショパンのプレリュードというより、日本では「あの太田胃散の」といったほうが通りがいいかもしれません。CMとクラシック曲というこ
とで言えば、そのイメージが最も強烈なものだと思います。現在でもそうかはちょっと分かりませんが、ある程度のご年配の方にとっては確実にそうでしょう。
雄倉恵子(ピアノ)
せんくら2006の本番後も、スタッフや他の出演の方とのメールのやりとりや、仙台のボランティアの方が撮ってくださったという写真(昨日のも本日のも、その時の写真です)などもいただいたりして、しばらくは楽しい余韻のうちに過ごさせいただきました。
そうしてしばらく経ったら、せんくら2007のお誘いをいただきました。
昨年のことがありますからこちらも覚悟は出来ていて
「曲目も曲順も全部ご指定いただいたものを弾くんでしょうねー。」
「もちろんです」
という会話で、「今年はもう少し楽か?」という一縷の望みは絶たれ、「のだめ」の各曲など、昨年より更に皆様がよくご存知で、私がよく知らない曲のオンパレードとなりました。
もう矢でも鉄砲でも、という感じですが、昨年と違うのは「あんな凄いフェスティヴァルにまた出られるんだ。」という素直な喜びです。
今年のチラシをよく拝見すると、ジョン・ゾーン、武満徹、リゲティなどの諸先生の作品も散りばめられていて、私の出演はともかくとして、この内容なら世界のどこでやっても恥ずかしくないものですね。
少ない出番でさっさと終わらせ、また他のものを楽しもう、と思っていたら昨年より1コマ多く弾かせていただけるようで、うれしいような悲しいような、の今日この頃です。
雄倉恵子(ピアノ)
少なくとも私にとって、昨年のせんくらは、なかなか厳しいお仕事でした。
昨年のブログにも同じことを書かせていただいたのですが、通常はこちらサイドが準備したものでリサイタルなりをやるので、基本的には「こちらが良く知っていて、お客様はよく知らない。」というところで勝負しているのです。
ですから、その結果として敷居が高かろうが、曲が難しそうだろうが、色々とご不満はおありでしょうが、演奏家としてはともかくその位置にいさせていただいているのが普通です。
ところが、せんくらは全く逆でした。こちらがよく知らなくて、お客様がよくご存知の曲を、挙句の果てには清水和音さんとか錚々たる方も同じ曲をお弾きになる・・・・
ともかくお引き受けした以上は、と必死で準備して余裕も何も無く仙台にまいりました。
その結果がどうだったをご判断いただくのは私以外の方の仕事ですから、自分の出番が終わったら、ホッとして少し回りを見渡すことができて、いくつかの本番ものぞかせていただきました。
そうしたら正直驚きましたね。御喜さんの段違いの技術のアコーディオンや、モーツァルトの珍しいソナタのいい演奏、長谷川陽子さんのバランスのいいトークと選曲、リンボウ先生の通常のクラシックとは違ったアプローチの楽しさ、米良さんの圧倒的な歌唱と、凄いクオリティの会が並んでいたのです。
自分はこんなにすごいクオリティのフェスティヴァルに呼んでいただけたのか、と改めて身震いする思いでした。
雄倉恵子(ピアノ)