最終回の今日はアンコールについて。弾きもしないうちからアンコールとは図々しい限りですが、ご許可をいただいたのであえて。
今回2つのコンサートのアンコールで弾くようにご指示いただいたのは、坂本龍一さんの「エナジーフロー」と「戦場のメリークリスマス」です。クラシックの小品特集で、現代日本で、それらの中にいれても匹敵できる曲、ということでプロデューサーがお選びになったとのこと。
確かに武満徹さん、三善晃さん他、現代日本でも素晴らしい作曲家はたくさんいらっしゃいますが、このプログラムに合うといえば坂本さんですね。私は特に「センメリ」のテーマ曲「メリークリスマス・ミスターロレンス(これが正式タイトル)」は、本当にクラシックとして後世に残る素晴らしい作品だと思います。
元の映画ではシンセサイザーでしたが、坂本さんご自身の弾かれたピアノバージョンのCDもあり、ピアノ作品としてもよく弾かれます。
最後にこれが弾けることは本当に光栄ですし、うれしいので、皆様それまでの私の演奏がたとえつたなくても、「せんくら」でこの作品が演奏された、という歴史をつくるために(大げさ)どうぞ拍手をよろしくお願いいたします。
1週間ありがとうございました。自分のことをのぞけば、実に楽しそうなフェスティヴァルですね。自分の出番の後は、びっしりはしごしてなるべくたくさんのぞかせていただきたいと思っています。一聴衆としてはリンボウ先生や五嶋節さんのお話が聴けるなど夢のようです。では、その時に。
雄倉恵子(ピアノ)
<CMで聴いたピアノ名曲集>の後半の5曲です。
バッハ:パルティータ第1番よりアルマンド (ロイズチョコレート)
ドビュッシー:アラベスク第1番 (資生堂オードレシピ)
サティ:ピカデリー (ロート製薬ロートCキューブ)
ショパン:ノクターン遺作 (パナソニックヴィエラ)
:幻想即興曲(カプコン・クロックタワー3)
やはりバッハはしぶといですね。私のやらせていただく2コマだけでも2曲。結局クラシック音楽のビッグ3はやはりバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンというのは不変というところでしょうか。
アラベスクはドビュッシーの最初期の作品。デビュー当初でもこうやって残る作品にするのですから、やはり天才というべきでしょう。
サティはそのドビュッシーやラヴェルにも影響は与えましたが、ちょっと傍流の感じのやはりまぎれもない天才。「ピカデリー」はジャズっぽいラグタイムのリズムによる楽しい曲です。
ショパンの遺作のノクターンは、このCMの他、映画「戦場のピアニスト」でも使われ、ただでさえある程度知られていたのが、完全にポピュラー名曲の仲間入りをした感じです。究極的にロマンティックな作品。「幻想即興曲」は、昔は給食の時間とか学校でよくかかっていましたが、今はどうなのでしょう。この曲はショパンの生前には出版されなかったとか。今も昔も天才も楽ではないようです。
雄倉恵子(ピアノ)
次は<CMで聴いたピアノ名曲集>。
前半で以下の4曲を弾かせていただきます。
リスト:愛の夢(京セラ クレサンベール)
バダジェフスカ:乙女の祈り (ユニマットレディース)
ベートーヴェン:月光の曲 (三菱電機 DVDカーナビ)
ベートーヴェン:エリーゼのために(関西ツーカーフォン)
リストさんはご自身が大ピアニストで、現在のリサイタルという演奏会のやり方を初めておやりになった方だとか。それまでは貴族に呼び出されたときに弾く、とかだったのでしょうねー。
バダジェフスカさんは、ポーランドでショパンよりちょっと後に生まれた女性。ショパンさんも30歳代で亡くなっていますが、バダジェフスカさんは23−4歳というさらなる若さで病没されたそうです。ほとんどこの「乙女の祈り」だけで知られていますが、この曲もちゃんとしたホールのリサイタルで聴く機会は余りないと思います。せんくらならではの選曲ですね。
ベートーヴェンの「月光の曲」は、ピアノソナタ第14番作品27-2の第1楽章です。これまた「月光」という名はベートーヴェンが名付けたものではありません。ベートーヴェンは幻想曲風ソナタ(Sonata quasi una fantasia)と名付けています。
ベートーヴェンはバガテルと言われる性格的小品をかなり書いており、いずれもピアノソナタに劣らない力作、名作ばかりで今後も残っていく作品群だと思います。そのなかでどういうわけか「エリーゼのために」だけは別格にウケテおり私が知っているだけでも次のような使われ方をしています。
1)宇多田ヒカルさんが「幸せになろう」(アルバム『DEEP RIVER』収録)という曲で「エリーゼのために」を原曲として使った。
2)プロ野球の千葉ロッテ マリーンズが、勝ったときや得点を入れたときに、トランペットでこの曲を吹き、合わせて「千葉・ロッテ・マリーンズ」と声をあげる。
そもそもこの曲は実は「テレーゼのために」とベートーヴェンが書いたものが、その悪筆のために「エリーゼ」と間違えられた、という訳のわからない説があるくらいで、最初からどこか違った運命にある曲なのかもしれません。
雄倉恵子(ピアノ)
「ドラマで聴いたピアノ名曲集」の最後は、いわゆる「トルコ行進曲」。
モーツァルトのK331のピアノソナタの第3楽章が楽譜にも「トルコ風」と書かれていて、よく独立しても演奏されるようになったものです。モーツァルトのなかでも「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の冒頭と並んでトップを争う有名曲ですね。
送っていただいた「せんくらチラシ(大判で見やすくてよくできていますね。これを見ているだけで空想が広がります)」を拝見して「せんくらの楽しみ方」という部分に「トルコ行進曲聴き較べ」とあるのはびっくり仰天しました。一応プロになって「聞き較べ」られることは普通はないものですから。しかも較べていただくお相手が清水和音さんやら仲道祐子さんといった大変な名ピアニストたち。「新さんという方だけは存じ上げない・・・」と思っていましたら、数日前にNHKテレビで五嶋龍さんと一緒にリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリンソナタを弾いているのを拝見してしまいました。あのすごいピアノパートをあんなにきれいに弾いていらっしゃる・・・・。
とまあ、演奏するほうにとっては全く迷惑な話ですが、確かに自分が聴き手に回れば、すごくいい演奏会に行っても友人と帰り道に「すごくよかったけど、やっぱりこの前行ったツィンマーマンにはとてもかなわないわよねー。」などと勝手なことを陰では言っているわけですし、確かにお客様の立場に立てば、聴き較べるのは音楽の楽しみ方の大きな部分を占めますね。
聴き手の私としてこれまでのトルコ行進曲で最も大きな経験は、トルコの作曲家・ピア二ストのファジル・サイさんがアンコールでお弾きになったもので、これは原曲から始まって自由に即興的にジャズ風にもなりながら展開されていったもので、私だけでなく客席全体が嵐のときの森のようにすごい反応をしたのを覚えています。「日本の聴衆はおとなしい」とも言われますけど、本当に面白ければこうなるのですねー。
CDでは最近来日もされたフォルテピアノのアンドレアス・シュタイアーさんのものがやはり驚天動地でした。そのほか一番頭の音を装飾音として前に出して演奏された高橋悠治さんとか。
いずれの皆様も、思いつきのアイディアではなく、理論的にも根拠があり、何よりモーツァルト自身がやったらこうなっただろう、というようなイキイキ感というか生々しさが共通していると思います。
ということで私も覚悟を決めてまな板に乗らせていただきますから、どうぞご存分に、かつお手柔らかに、お聴き較べくださいまし。
雄倉恵子(ピアノ)
「ドラマで聴いたピアノ名曲集」の後半は、以下のようなプログラムです。
シューマン:トロイメライ(真夏の月)
ショパン:雨だれのプレリュード(冬のソナタ)
ベートーヴェン:テンペスト第3楽章(冬のソナタ)
モーツァルト:トルコ行進曲(ロング・ヴァケーション)
シューマンという名前は、著名作曲家の1人として皆様もご存知と思いますが、では「シューマンの作ったメロディーを何でもいいから歌ってみてください」と言われて歌えますか?意外と難しいと思われませんか?
そのなかでトロイメライは、聴いていただければ多分「あー」と思っていただけるシューマンの中でも数少ない「聴いたことのあるメロディー」でしょう。シューマンのような大作曲家でさえ、こんな感じですから、ポピュラーな曲になる、というのは本当に大変なことですね。
「フユソナ」からの2曲で言えば、「雨だれ」は一応昔からポピュラー曲。「テンペスト」のフィナーレは逆に「フユソナ」で知られたのではないでしょうか。どちらも「雨だれ」「テンペスト」といった愛称は作曲家がつけたものではありません。この種のものは後から出版社なりが商業的な理由でつけられることが多いようです。ですから例えば「テンペスト」もいつの間にか日本では「フユソナ」というニックネームで呼ばれる、というようなもので、実際そういう可能性も無いとは言えないと思います。
いずれも作曲家の充実期の傑作で、それぞれの真髄がでていますからそのメッセージがお届けできればいいですけどね。
トルコマーチについてはまた明日。
雄倉恵子(ピアノ)
まず「ドラマで聴いたピアノ名曲集」の前半について。
このコンサートはマタニティコンサートということで、会場の人数プラスアルファの生命の前で弾かせていただく、というちょっと感動的なシチュエーションで、それだけでも頑張らざるをえませんね。
まずはバッハ作曲の「主よ人の望みの喜びよ」。これはドラマ「あすなろ白書」で使われたもので、元はバッハのカンタータの中で管弦楽とコーラスで演奏されるものです。そのピアノソロバージョンなのですが、このピアノソロへのアレンジはマイラ・ヘスという方のアレンジがよく弾かれますが、今回は高橋悠治さんによるアレンジでやらせていただきます。軽やかにコラールが浮かび上がる、素晴らしい編曲です。
次はラブレヴォリューションで使われたベートーヴェン作曲「悲愴」ソナタの第二楽章。ベートーヴェンの「月光、熱情、悲愴」といういわゆる3大ソナタのなかでも「悲愴」の第二楽章は最も美しい部分でしょう。その楽章だけ抜き出す場合、全曲弾く中での第二楽章とテンポを変えるべきかどうか、という問題がありますが、これはとても難しいところですが、私は、テンポは変えることにしました。独立して味わっていただくことと、更にこのコンサート全体の中でのテンポ設定を考えています。
前半3曲目は、ショパンのエチュードから「革命」(少女に何が起こったか)です。エチュードは練習曲という意味ですが、ともかくどの曲も難しいのなんの・・・こんな曲集が弾けるくらいなら、他は何でも弾けるでしょう。だから練習曲と言うのでしょうか?おかげさまで、そのなかでも超難曲の「革命」をやらせていただけるとのことで、私としても大変な「練習」をさせていただいております。フー。
雄倉恵子(ピアノ)
今回、せんくらで「ドラマで聴いたピアノ名曲集」と「CMで聴いたピアノ名曲集」を担当させていただく、雄倉恵子(おぐら・けいこ)と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
今回のプロデューサー様からのご依頼は強烈でした。
「仙台でクラシックフェスティヴァルが開かれます。ドラマで使われた曲とCMで使われた曲の特集をお願いします。曲も曲順もアンコールもすべて指定させていただきます。ではよろしく。」
通常のリサイタルのときは、こちら側で都合の良い曲のプログラムを決めさせていただき、お客様にとってはよく知らない曲を聴いていただくことになります。ですから「音楽は、音を学ぶ音学ではなく、音を楽しむ音楽ですからどうぞ気をお楽にお楽しみくださいませ。ホホホ」などと暢気なことを言っていられるわけですが、今回の場合は立場が全く逆転してしまっています。
正直なところ、私はテレビをあまり見ないので、私はよく知らなくてお客様はよくご存知、という、演奏家にとっては最悪の状況から出発させていただくことになります。準備を重ねていけばこの状況は逆転できるのでしょうか?
それで、メールで具体的な曲目を拝見しましたが、テレビという媒体は我々クラシック界よりはるかに広いお客様にアピールしなくてはいけないでしょうから、さすがにその制作者側が選んだ作品は単独で取り出しても、文句のつけようの無い名曲ばかりです。これは自分のリサイタルと考えさせていただいても大変魅力的なプログラムではあります。
ということで、泣く泣く、(本当のことを言えば大喜びで)スケジュールもろくに確認しないでOKの返事をさせていただきました。明日からは具体的な曲目のことを少々。
雄倉恵子(ピアノ)