
私のヴァイオリン・メモ(2)
ストラディヴァリウスの本当のゴールデン・ピリオド(黄金期)とは?
一般的に言われているストラディヴァリウスの製作年代は———
最初期(一六七九〜一六八九年)アマティから独立し、自分の型を確立した時期で、一六八〇年以後が特に良いと言われています。
ロング・パターンの時期(一六九〇〜一六九九年)胴体の長さが約八ミリ長くなり、ブレッシア派の影響を強く受けた時期。
ゴールデン・ピリオド・黄金期(一七〇〇〜一七一六年)アマティのグランド・パターンを改良したもので、この時期の代表作には『メシア』があります。
円熟期(一七一七〜一七二八年)カルロ・ベルゴンツィをはじめとする十名前後の弟子を抱えていた時期で、かなりの量産をしていたと考えられます。
老年期(一七二九〜一七三七年)
———私はこの老年期と云われる時期こそが、あるいは本当のゴールデン・ピリオドなのではないか、と考えています。確かに工作技術は多少なりとも衰えを見せてはいますが、この時期には二人の息子をのぞいては、ほとんどの弟子が彼の下を去り、ほとんどの作業を一人で行ったと思われます。そして、この時期の作品は、ともかく音が素晴らしいのです。
その証明として、以下に述べる名演奏家がこの時期の作品を愛奏しています。
クライスラー 一七三四年と一七三三年。
ハイフェッツ 一七三三年の作品をクライスラーから譲り受けた。尚、彼は一七三四年の作品を持っていた。
メニューヒン 一七三三年。
ジンバリスト 一七三三年。
フーベルマン 一七三四年。
これだけのそうそうたる世界的名ヴァイオリニスト達は、いつでも彼らが望さえすれば、一七〇〇〜一七一六年のイワユル」ゴールデン・ピリオドの作品を手に入れることのできる立場にあったのですが、彼らは揃いも揃って、老年期の作品を最上のものとしたのです。
故に私は、本当の黄金期は、最晩年にあったのかもしれない、という仮説をもつのです。尚、製作者からの立場で云わせていただけるとしますなら、何年〜何年という線で区切ったような時期なるものが存在するとは決して思えないのです。
ヴァイオリン製作家 中澤 宗幸