アメリカの音楽フェスティバル

2023.09.13| 栗コーダーカルテット

せんくらファンの皆さんこんにちは。栗コーダーカルテットの川口義之です。三人なのにカルテット、ということで毎回ゲストプレーヤーを加えて演奏活動をしているわけですけれども、他の二人がせんくらにまつわる文章をまとめてくれると信じて、全然関係ないフェスティバルのことに触れたいと思います。なんだかせんくらと共通したところがあるなあと前々から思っておりまして。
 
アメリカの深南部と言われるあたりにニューオリンズという大きな都市があります。ジャズ発祥の街として有名ですね。35年前、初めての海外旅行の時に訪れて以来、相当な回数通ってますが、それというのも4月の最終週の金、土、日と5月の第一週の木、金、土、日の七日間に渡って大きな音楽フェスティバルがありまして、それを観に行くのがコロナ禍前までの年中行事のようになってました。今年になってようやく再訪したのですが、相変わらずのハッピーで無理のないイベントでした。正式名称はニューオリンズジャズ&ヘリテッジフェスティバルといって、ヘリテッジは遺産、伝承、伝統みたいな意味で、出演者はジャズに留まらずアコーディオンやバイオリンを使った地元の音楽のザディコやケイジャン。ロック、ポップス、ラップ、ゴスペル、フォーク、ブルースなどなど。
(https://www.nojazzfest.com/music-schedule/)
 
日本の山の方で行われる巨大な音楽フェスなどとは違って、こちらは町の競馬場の中だけで行われます。競馬場は街の中心であるフレンチクォーターから車で10分。路面電車(トラム)を使っても2〜30分といったところでしょうか。4〜50分かければ徒歩でも行ける距離です。その限られたスペースの中に12箇所のステージ、他に競馬の屋内観覧席を利用したミュージシャンのインタビュー会場が一つ、子供達に楽器を教えたりするキッズテントが一つ、ルイジアナ州の郷土料理のオープン教室が一箇所。12のステージは音楽の傾向でおおよそ出演者が振り分けられていて、名前も分かりやすくジャズテント、ブルーステント、ゴスペルテントなんて屋根付きの会場もあれば、アリーナクラスの人数がいっぺんに観られる野外の会場が三つ。古いスタイルのジャズを一日中演奏している小ぶりなテントでは、高齢のご夫婦なんかが仲良く踊れるスペースが用意されていたり、ちょっとした配慮がそこかしこに感じられます。
 

 
午前11時開場で程なく演奏が始まり、終演はおおよそ午後7時。今年はまた料金が上がりまして当日券が95ドルでしたが、一日中全てのステージが自由に観られます(初めてフェスにいった頃は12ドルくらいだった記憶が)。各会場への入場制限はないようで、おおらかなお客さんは好きな出演者のテントの外に椅子を並べたりして、音だけを楽しんでいたりします。各演奏の長さは早い時間帯は4〜50分程度が多く、後半やや長めになり、メインの大きなステージでは一時間半から二時間の、ほぼフルコンサートくらいのボリュームの演奏を聴くことができます。目当ての出演者がある人たちは、早くから集団で椅子を並べて陣取ったりしているのはどこのフェスも同じかな。食べ物や飲み物のブースも沢山ありますし、ビール売りやピーナッツ売りが会場を回っていたりもします。
 

 
時折ステージ以外の場所でマルディグラインディアンと呼ばれる集団の派手な衣装のパレードが列をなしていたり、ちっちゃなスペースでメキシコのマリアッチの演奏やネイティブアメリカンの踊りや太鼓が始まったりと、偶然見かけたものがとても印象的だったりします。自分が毎回楽しみとしているものとしてはカルチュラルエクスチェンジ、文化交流という枠がありまして、毎年違った国のミュージシャンが何組も招聘されて、色々な会場で演奏を行います。今年はプエルトリコのミュージシャンが大挙してやってきて、どのバンドも素晴らしい演奏でした。過去にはキューバやブラジル、ジャマイカ、アフリカ(国名は失念)なんてのがあったような気がします。これだけ沢山の出演者がいると全く知らないミュージシャンも多いのですが、フリーペーパーのフェス特集には出演アーティストの略歴が辞書のように引けるようになっていて実に便利。
 

 
お昼の11時から夜7時でイベントが終わったと思ったら大間違い。この時期は町のあらゆるライブハウス、バーなどで有名無名のミュージシャンが演奏をしています。それも店によっては朝まで!同じライブハウスが夜9時から12時、深夜12時から3時、3時から朝6時なんて感じでフル回転。僕もフェスの会場から宿に戻るや否やシャワーを浴びて、Tシャツ短パンから多少フォーマルめの服装に着替えて再び夜の街に出かけていきます。便利なことにフリーペーパーにはその日の主だったライブのスケジュールが列記してあったりしますし、もちろん今時はウェブで調べることもできます。僕はアメリカーナのジャンルでグラミー受賞者のベテラン女性シンガーソングライター、ルシンダウィリアムズをシビックシアターに観にいきました。そうした前売りが売り切れてしまうようなビックネームもいれば、ドリンク代とチップだけで飛び込みで観られる気楽なバーもいっぱいあります。翌日の朝11時にフェスの会場にいようと思ったらそんなに夜更かしはできないのですが、ついはしごをしてしまって結局疲れ果てて翌朝の会場入りが午後になることはしばしば。炎天下に8時間いるのはしんどいのでそれはそれで良いのですが。アメリカの南部の日差しはなかなかのものです。このところはつい日差しを避けてテントの中のプログラムを中心に観てしまうようになったかな。
 

 
 
この素敵なフェスにも悩ましい問題が二つあります。まず一つ。二週間のうちに必ず一度は大雨が降ります。嵐といってもいいくらい。屋内の会場もいくつかあるとはいえ、皆さんびしょ濡れ。雨の後の時間帯の演奏が全て中止になったこともあるし、一度だけ丸一日完全に中止になったのも経験しました。随分昔ですが、その日はハリーコニックJr.が出る日だったので観たかったなあ。そして雨の翌日からは元々競馬場だけあって土はドロドロ。芝生で寝転がって聴くなんて楽しみもできなくなっちゃいます。
 
もう一つは、せんくらを経験している方なら思い当たることでしょう。観たい、聴きたい出演者の時間帯がぶつかるんです。これはもうしょうがない。このフェスに関しては各ステージのトリの時間帯には色々なジャンルの有名ミュージシャンが目白押しです。かつて自分は、ひどい時には終盤の二時間ほどの間に10ステージくらいをはしごして移動したこともあります。エリッククラプトン、なんて有名な方のステージでさえ、2曲ほど聴いたら次に移動したり。今年に至っては、もはや諦めてハービーハンコックのステージは全く観ないって決めて、トムジョーンズのステージを最初から最後まで観たり。今回のこのビックネーム二人の出演ステージは競馬場の端と端だったのではしごは諦めましたが、遠目に観たり聴いたりするくらいだったら、各ステージの間の移動は割と楽で、一つのステージの音が小さくなったな、というくらいに離れると次のステージの音が聴こえてくるってくらいの距離感なので、無理なく楽しめます。欲さえかかなければ、実にゆったりと音楽を満喫できるフェスです。
 

 
観に来ているお客さんは車で来られる距離の方が多いようです(といってもアメリカ人は長距離移動が平気みたいですけど)。フェスの開催日だけ市内に泊まって、翌週までの平日は一旦自宅に帰って仕事をして再びやってくるみたいな方々なんだと想像できます。日本から来た、というとびっくりする方が多いです。やはり地元に根付いたフェスなんでしょうね。
話をせんくらに戻しますと、せんくらのお客さんも、やはり地元に近い方々が多いのかな。仕事の合間にふらっと寄ったりもできる気楽さがあるかと思います。こうした地元に密着したイベントが毎年行われるなんて羨ましいですね。それもこんなに豪華な出演者から選び放題という。僕たちの出演枠は、音楽に触れるきっかけ、的な役割かと思いますが、音楽のいろんなあり方の中の一つを提示できたならば幸せだなあと思います。自分も出演時間以外はいろいろ観て周りたいと思っています。そうしたことには(もちろん)慣れてますし、とても楽しみです。
 
 
川口義之

カテゴリー