クラシック音楽は伝統芸術ですが、「伝統=教え伝える」ということの重みを、私自身の受けて来た教育を軸にお話ししたいと思います。
私が幼少の頃習っていたジェローム・ローエンタール先生は、教会でオルガンを弾いていた、のちの名指揮者ストコフスキーを発掘し最初の妻となったオルガ・サマロフ、その弟子のウィリアム・カペル、そしてフランスではあのコルトーに習っていました。無名だったストコフスキーの才能を見つけ出して結婚までしたオルガは凄いですね。
6年生でアメリカより帰国後についたのが、アイザック・スターン氏にご紹介して頂いた井口秋子先生です。秋子先生は、レオニード・コハンスキ、レオニード・クロイツァーの両氏に師事されています。
高校、大学でお世話になった安川加寿子先生の師はフランスのラザール・レヴィ。そのレヴィ氏を育てたのが、ルイ・ディエメという先生で、コルトー、カサドシュらを育てています。
ジュリアード時代から今も時々レッスンに伺うマーティン・キャニン先生の師はロジーナ・レヴィーン。ヴァン・クライバーンや作曲家のジョン・ウィリアムスまで多数の名音楽家を輩出し、あの中村紘子先生もレヴィーン門下でした。ちなみに紘子先生は秋子先生同様、レオニード・コハンスキにも師事されていらっしゃいます。
ここまで来てキーワードとなっているのが、ロシア、フランス、そしてもちろんユダヤ。そこにドイツやアメリカが関わり、優秀な教育がどのように継承されて来たかがわかりとてもおもしろいです。
自分の受けて来た教育がコルトーやその更に先生と繋がっているなんて!改めて見てみると、演奏スタイルやレパートリーにもやはりどこかで影響している気がします。
このことを強く認識したのは、桐朋学園で長年教えていらしたミハイル・ヴォスクレセンスキー先生のレッスン室にいた時でした。
もう20年も前のことですが、モスクワ音楽院の先生のお部屋に入ると、肖像画がいくつか飾ってあり、「これは僕の先生のレフ・オボーリン(アシュケナージらを輩出)をはじめ、代々この部屋でレッスンをしたピアノの巨匠たちなんだよ」と伺い、校舎の古さにも驚きましたが(笑)、歴史の重み、そして今ここで自分がピアノを弾いている、ということに感激したのを思い出します。
どのような教育を受けて来たかによって、歴史上でしか耳にしたことのない名演奏家たちの指使い、解釈、その他細部を再現することが出来るとは、なんて素晴らしいことなのでしょう。
責任をもって真摯に学び、表現せねば、と改めて思います。
さて、3日間、読んでいただきどうもありがとうございました。
続きは・・・せんくらで!