せんくらブログ

クラシックはかなり特殊かも

2016.08.13| 森下 唯

3公演のうちひとつは、岡田鉄平さんとのデュオ。

 

岡田さんと森下には共通点がありまして、ふたりともスタジオレコーディングの仕事を多くやってきているんですね。スタジオ仕事の多くは、できたての楽譜をほぼ初見で演奏することになります。そして音源が完成してしまえば、その楽譜はもう二度と誰にも演奏されないことがほとんど。

かたやクラシックは何ヶ月、何年といった期間で準備をするのが当たり前で、いろいろな演奏家によって繰り返し取り上げられるのですから、ずいぶん違う世界です。

 

でも考えてみたら、たとえばバッハは毎週の礼拝用にどんどんカンタータを書いて、人々は毎回これきりと思いつつそのできたてを歌ったのだし、モーツァルトだってシューベルトだって仲間たちとほやほやの譜面で合奏していたわけです。同じ曲を長いあいだ練習しないと演し物にならない現在の「クラシック」の方がよほど特別な存在、ということかも。そうやって、ひとつの曲、いちどの演奏に人生のすべてが表れてるような瞬間が生まれ得るのが、クラシックのいちばんの醍醐味ではあるまいか、と私は思っています。

対してスタジオ仕事の醍醐味は、というと、たくさんの人に自分の弾いた音を聴いてもらえるところでしょうか。それも知らず知らずのうちに。記憶に残るあのワンシーンのバックで流れている音楽は、実は自分の演奏だぞ、なんてのは密かな楽しみになります。

ふふふ、誰も気づいてないだろうけどその感動の何%かは私の演奏の影響かもしれんのだぞ、なんてね。

 

3_studio

ピアノブースから見るスタジオ風景

 

 

映像作品の付随音楽はたいてい、1曲いっきょくはとても短く作られます。でも再構成・編曲などをしたら十分「クラシック」的なアプローチを受け止める強度を持つような素敵な作品もたくさんあると感じます。

一度きりの録音で忘れられてしまうのはもったいない!

最近は劇伴音楽の演奏会などが増えていますけど、基本的には繰り返し聴くので耳に残りやすい「ゲーム音楽」に限定の感もあり。それも当然ながらゲーム自体の人気が高くないといけないし……。

 

でも、生の演奏会が受け入れられるようになったというのはとても素敵なことだと思うのです。クラシックの楽しみ方って、ひとつの音楽をいろいろな演奏・解釈で聴く中で、その違いに味わいを見つけることでもある。サントラの原曲そのものだけじゃなくて、その編曲・生演奏を楽しむのは、同じく音楽自体の味わいを新たに見つけることにつながりますからね。

本当に素敵な音楽は、いつか作品全体とはある程度切り離されて、クラシック的に繰り返し聴かれるものになるかもしれません!

そうなったとき、「サントラ原曲の演奏もなかなか良いね」と言われるくらいの演奏ができるように頑張ろうと思います。

 

 

森下唯(ピアノ)


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