2015.09.19
8月も半ばを過ぎるとフィンランドでは秋風が吹く。
空は高く遠くなり、樹々の葉は色づきはじめる。
森の中で集めてきた夏の茸やブルーベリー、野苺なども終わりを告げ、湖水は日を追うごとに冷たくなっていく。
今日、白鳥が一羽、目の前の湖で翼を休めていた。シベリアへでも渡る途中だろうか。
子供の頃、仙台の五十人町で夜の闇を走り抜けていく蒸気機関車の汽笛に耳を澄ませていた。
まだ子供だった小父や小母達も同じ寝室で、泣くようなその音を聴いていた。その音が私たちを近くも孤独にもした。
昼間は小父たちと火鉢を囲んだり炬燵に入ったりして侍の本を読んだ。
荒木又右衛門のことをアラキ・マタウエモンと読んで、まだ小学校にもあがらない私は小父たちに笑われた。
青年になり成年になり、外国に飛び出して行き、青い目の娘と結婚し、ピアノを弾いて世界中を廻り、年をとり半身不随になり、お爺さんになったいまでも一年に何回かは仙台を訪れる。
いつまで経っても、新幹線の時代になっても、私には蒸気機関車の汽笛が聴こえている。
(2015年8月15日 ヘルシンキで)