こんにちは。作曲家の吉川和夫です。
昨年大好評を頂いた【せんくら・うた劇場】を、今年も開催させて頂けることになりました。
公演は10月4日(日)14時15分~15時、エルパーク仙台ギャラリーホール(公演番号69)です。どうぞよろしくお願いいたします。
【せんくら・うた劇場】って?
小さなお子さんに「読み聞かせ」ということをしますよね。
【せんくら・うた劇場】は、歌いながらお話をたどっていく、いわば「歌い聴かせ」ということになるでしょうか。
子どもさんでも大人の方でも楽しんで頂ける公演になるよう、目下練習を重ねているところです。
今年のプログラムは宮澤賢治原作・吉川和夫作曲「虔十公園林(けんじゅうこうえんりん)」です。
「銀河鉄道の夜」や「風の又三郎」のようには知られてはいませんけれども、とてもすてきなお話です。
虔(けん)十(じゅう)は、ある日お母さんに700本の杉の苗を買ってほしいと頼みます。そんなたくさんの杉をどうするのだ?といぶかるお母さんとお兄さん。「買ってやれ。虔十は今まで何ひとつ頼みごとをしなかったのだから」とお父さんが言ってくれました。そして、家の後ろの大きな運動場くらいの広さの野原に杉苗を植えていきます。杉はすくすくと育っていったのですが、ある日野原の北側に畑をもっている平二が怖い顔をしてやってきました。虔十が植えた杉林は、どうなってしまうのでしょうか…。
虔十さんは、年齢不詳です。
「いつでもはあはあ笑っている人でした」という証言があります。
みんなから「少し足りない」と思われてもいたようです。
この話、私には、どこか「仙台四郎」という人の話と重なるように思えてしまうのです。
仙台では、飲食店の神棚などに、仙台四郎の写真や置物が飾られているのを見かけることがありますよね。
仙台四郎さんは幕末から明治にかけて実在した人物です。
知的障害によって言葉をちゃんと話すことができず、子どもが好きでいつもニコニコ笑っていた、立ち寄る店は必ず繁盛したので、どこの店でも温かくもてなしたそうです。
だから、四郎さんは今でも商売繁盛の「福の神」として祀られています。
ほほえましい都市伝説ですが、特別な支援が必要な人を地域の人々がみんなで守っていた証でもあるように思います。もちろん、地域の人々がみな寛容だったわけではなく、「虔十」を疎ましく思う「平二」のような人もいたでしょう。
虔十や平二にモデルがあったのかどうかわかりませんが、賢治が、今でいうノーマライゼーション、健常者と障害者とが区別されることなく生活できる社会の実現を見据えていたのは間違いありません。
限りなくお伽話風でありながら、同時に限りなく現実に隣接しているところがこの作品の凄さだと思います。
この作品は、1999年にオペラシアターこんにゃく座が初演したオペラ「虔十公園林」を、山形の合唱団じゃがいもが合唱劇として上演しました。
昨年に続き、今年も中村優子さん、髙山圭子さん、原田博之さん、髙橋正典さん、そして倉戸テルさんというとても素晴らしい演奏家の皆さんが、演奏を引き受けてくださいました。
重唱としては初めての演奏になります。
仙台四郎の伝説のように、虔十のお話もどうか長く伝えられますように。
そして、今回は、もうひとつすてきなコラボレーションが実現することになりました!
詳しくは次回に!