この音楽祭は、クラシック好きでもクラシック嫌いでも無い、ごく普通の方々のために企画されたものです。クラシックファンは普通、人口の1%とか2%とか言われます。親戚一同のクラシックファンを考えても、まあこれが当たらずとも遠からずの数字でしょう。
これは、随分少ないようですが、では、クラシックを積極的に大嫌い、という層もそうはたくさんいないと思います。つまり多くの方々は好きでも嫌いでもない、といったところではないでしょうか。では、その普通の方々がなかなかコンサートに来ていただけないのは何故か。このあたりの分析からこの音楽祭のプランを始めてみました。
この「音楽会に行かない理由」をランダムに並べてみます。
●難しそう。知らない曲が多い。
●1曲も長いし、1コンサートも長くて退屈する。
●入場料が高い。
●安いのを聴きに言ったが、やはりそれなりの内容だった。
●子供には聴かせたいが、会場に入れてもらえない。
●ある日時が決まっていても、それに合わせるのは難しい。
●家に乳幼児や年寄りがいたりして、夜外出するのは難しい。
●家の近所には一流の人はとても来てくれないだろう。
●CDや本は1クリックでネットで買えるのに、
コンサートチケットを入手するのはなかなか面倒。
●コンピュータとかデジタルは苦手。窓口で人が売ってくれないと困る。
●よく知らない会場に行くのも億劫。地図の字も小さくてよく見えない。
「せんくら2006」では、これらこちらサイドで気がついたことはすべて対処させていただきます。つまり・・
●どこかで聴いたことのある親しみやすい曲が中心。
●1コンサートは45分。その中身も短くて面白い曲が多い。
●1コンサート前売り1,000円。
●出演者は趣旨に賛同してOKしてくれた一流ばかり。
●3歳以上であれば子供さんでも入場可能。それどころか是非親子連れでどうぞ。
●3日間朝から晩まで何コマもやっているので、ご都合の良い日時でどうぞ。
●多種多様な約100コンサートをやり、よりどりみどり。
●仙台市内4箇所10会場がメイン会場でその他企画もたくさんあり。
●ネットでオンラインで簡単にチケット購入可。
●対面販売窓口も確保。
●他県のお年寄りの方にも分かりやすい、大型の地図をチラシなどに掲載する。
といった具合です。
クラシック音楽は、通常演奏家が演奏したいプログラムを提供する形が主流です。それは芸術としては全く正しいことだと思いますが、現に多くの方の支持が得られていないなら、何か違うやり方も試みられていいでしょう。それはもちろん芸術家側の主体性とも折り合える範囲でなくてはいけませんが、その範囲であるなら、上記のような聴衆側の目線からプランニングしてみてもいいだろう、というのが今回の試みです。
その上で、提供側として、色々な制約の範囲はありますが、最高と思われるものに磨いているのは言うまでもありません。
つまり、このフェスティヴァルの主人公はサイレント・マジョリティのお客様ということです。これは仙台、東北ではもちろんのこと全国的に見ても珍しい種類のフェスティヴァルと思われます。今回、通常より安い出演料で、出演をご検討くださっている全演奏家の方には感謝の言葉もありません。ですが、それら世界的名声のある方、仙台出身者の方、コンクール上位入賞者、多数のCDが発売されている方、若手のホープ、地元のオーケストラ等々の皆さんも結局サイレント・マジョリティの聴衆の方にどう選ばれるかがはっきりする、という側面もあります。
こういう試みは、できうるなら継続できると良いとは思いますが、皆様の支持が少なければ当然第2回は開かれないでしょう。また仮に第2回以降が開かれるなら、演奏家、私自身も含めてスタッフも、結局は、直接に間接に聴衆の方に選んでいただいた人間が関わり続ける、ということになるのでしょう。 しかし、いずれにしても私個人としては、懐深くこのような試みにご賛同くださり、かなり大変な全実務にご尽力くださっている仙台の皆様に深い感謝を捧げます。
平井洋(せんくら2006プロデューサー) |