■ 福田進一(ギター)
(1)2006年05月21日
第1日 ごあいさつ
みなさまこんにちは。ギタリストの福田進一です。
10月に開催される「仙台クラシックフェスティバル」は1000円で気軽に一流の(ここが大事ですね)演奏が聴ける素晴らしいクラシックの一大イベント。私の旧知の音楽仲間も沢山出演するので、オフの時間には地下鉄に乗って演奏会場をめぐってみようと今から楽しみにしています。
さて仙台には、演奏会で度々訪れています。仙台が誇るオーケストラ“仙台フィル”との共演、ソロリサイタル、仙台ゆかりのヴァイオリニスト森下幸路さんとのデュオ、そういえば今回共演させて頂く、美人ヴァイオリン・デュオの“デュオ・プリマ”とも何年か前に仙台で共演したと思います。温かいお客様、風光明媚な土地、美味しい食べ物飲み物、この演奏旅行の楽しみ基本3原則をハイレベルで満たす仙台に、食欲、否、芸術の秋に伺うことを今から心待ちにしています。
実は今、ドイツのミュンスターにいる(はず)です。この原稿は出発前に書き溜めましたので、上手く行けばドイツからのリアルタイムのレポートがここににアップされているかもしれません。是非覗いてみて下さい。http://cadenza-f.seesaa.net/
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(2)映画 — 2006年05月22日
第2日 映画
アンケートなどで趣味の欄があると思わず「ギター」と書いてしまう福田です。が、まあほかにはっきりと趣味って呼べるのは「海外旅行」とかで。あ、これも仕事に大きく含まれてしまいますね。昨年は11カ国、今年もすでに7カ国行きましたから完全に趣味を超えてますな。
というわけで、趣味の欄にいつも書くのは「読書」または「映画」になります。いつ、そんな時間があるの?ってよく訊かれますが、まあ飛行機や列車の中でのひまつぶしで、旅行中が多いですね。
映画と言えば、今回の「せんくら」でも、映画音楽を取り上げます。ギター1本で演奏する曲はどうしてもしっとり、ムーディーな曲が多く、今回も名作「ひまわり」、「禁じられた遊び」、「ニュー・シネマ・パラダイス」など、たっぷりと思い出に浸って、“泣いて”頂きたいと思っています。
さて、好きな映画はいくらでも挙げられますが、僕にとって非常に特別な映画は「スターウォーズ」です。演奏する曲とはだいぶ落差がありますね。というのも第1作エピソードIVを観たのが、留学したばかりの時、場所はパリのオペラ座近く映画館通りでした。(その昔、このイタリア通りの50何番地かに、ソルとアグアドというギターの巨匠たちが住んでいたらしいけど・・・・)友人の稲垣稔さん(ギタリスト)と行ったのを覚えています。1977年の、たしか秋でした。最初の印象?
「あ!この宇宙船、紐で吊ってない!」円谷映画観て育った僕には衝撃でした。あれから28年かぁ・・・
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(3)南米 — 2006年05月23日
第3日 南米
今年5月10日(京都/アルティー)12日(東京/白寿ホール)に世界初演、5月19日(ドイツ/ミュンスター音楽院ホール)でヨーロッパ初演を果たした、レオ・ブローウェルの新作「ハープと影」(私、福田進一に捧げられたんですよ!)は、キューバ人作家アレホ・カルペンティエルの同名小説にちなんで作られた作品です。
その「ハープと影」を友人から借りて読んではみたものの、これが難しい。南米大陸を発見したコロンブスを聖人とするか、どうしようか?というのがテーマの小説ですが、読めば読むほど僕が日本で受けてきた歴史の教育が北半球文化圏に偏ったものだったかと、自分の知識の薄さを恥じます。知らなかった単語や引用だらけ・・・・・
この原作に比べれば、レオ・ブローウェルの「ハープと影」は易しいというか、解りやすい。音楽は言語を遥かに超越したインターナショナルな普遍的な言語として心に響いてきます。音楽やってて良かった。ありがたい!
この作品は分断された美しく切ないメロディーとそれを繋ぐカデンツァ、その音程から導きだされるミニマル風にうごめく部分と強烈なリズムのトッカータがあり、最後に冒頭のメロディーが全体像を現すという壮大でロマンティックな作品です。易しいと書きましたが循環するパッセージは相似形が多く複雑で、回数とか覚えるのに苦労しました。
本人から「魔術のような音響が出来たよ!」というメールをもらったのですが、たしかに今までのギターにない響きが聴こえてきます。67歳になる巨匠ブローウェルは過去の作風を集大成、あらゆる音楽言語を駆使しています。
そういう意味では、まるで彼が尊敬するカルペンティエルの小説のようです・・・・
さて、私は生涯100枚CD計画を着々と遂行し、現在まで50枚以上のCDを発表してきました(趣味ですな)。今のところの最新作は3月に発売された「ヴィラ・ロボス&ポンセ作品集」です。「せんくら」でも“エストレリータ”を演奏する予定です。演奏会の予習のためにも是非一枚お買い上げを!(笑)
ヴィラ・ロボス/ブラジル民謡組曲/5つの前奏曲
ポンセ(J.L.ゴンサレス編)/エストレリータ
南のソナチネ/プレリュード&バレット/主題、変奏と終曲
マイスター・ミュージックから発売
美しい「はちすずめ」のダブル・ジャケットです。
スペイン三部作に続く、南米三部作の第一弾です。
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(4)デュオ・プリマ — 2006年05月24日
第4日 デュオ・プリマ
皆さんご存知美人従姉妹デュオの“デュオ・プリマ”の二人とは、何度も共演しています。
彼女たちと初めて共演したのは確かデュオ・プリマのファーストCD「カスタ・デーヴァ」でファリャの「火祭りの踊り」を収録した時だったと思います。今からかれこれ4年前かなあ。その頃からちっとも変わらず美しいオーラを出し続けるお二人と、今回は2つのステージ「歌と踊り」、「ラテンの郷愁」で共演することになりました。違ったタイプの曲でステージを構成しましたので、お二人の魅力を、福田が“ぐぐっと”引き出してみたいと思っています。
ヴァイオリン・デュオとギターというのはちょっと変わった組み合わせですね。同じ楽器同士のデュオ(ましてヴァイオリン、まして女性同士)なんて、考えただけで恐ろしい。火花が散って、いつかは血を見る、はずなのですが、彼女たちは従姉妹同士。小さいときからずっと一緒、先生も一緒なので、喧嘩をする事もないそうな(ホンマかいな)。
実は私は神谷さんに大変感謝しているのです。未穂チャンは今もパリに住んでいて、以前スイスで楽譜のバインダーをお土産に買ってきてくれたのです。これが大変スグレモノで、バインダーに磁石がくっついている。譜めくりがなかなか難しいギタリストの楽譜は、現代音楽を演奏する時など、ものすごく横長になることが多いのです。譜面台にしっかり固定されたフメンカバーはそれ以来、福田の強い味方です。有難う!
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(5)閑話休題 — 2006年05月25日
第5日 閑話休題
最近の福田は再びタキシードのフォーマル・ウェアを着て演奏しています。思えば20数年前・・・デビューしたての頃はディオール、その後カルダン、アルマーニのタキシード等着ていました。でも若かったんですね、全然身に付かなかった(はっきり言って似合わなかった)。それにタキシードってとても演奏し辛いんですよ。
ピアノのピーター・ゼルキンがTシャツ姿で出ていたのを「カッコいいなあ」と思ってドレス・シャツだけで舞台に立つようになったのはいつ頃だったでしょうか?80何年かだと思います。
まず、シャツに変えたら旅行に便利!これで僕は断然シャツ派になりました。特にイッセイ・ミヤケの100%ポリエステルというのは、これはもうミュージシャン必須アイテムだと思います。最近まで着ていたシワシワ・モデルの黒、ターコイズ・ブルーすべてイッセイです。また他に僕が愛用しているのはフランスのメーカー「ノガレ」のタートル・ネック。CDジャケットにもなっています。
ところが、年齢ですね・・・・共演者の年齢も平行して上がってきた。僕のおなかも膨らんだ。今こそフォーマルが似合う!という年になったんですね。というわけで今回も多分タキシードで登場します。
しかし、移動の度に、タキシードの入った荷物を見て考えてしまいます・・・・「うーん。重い。かさばる。」
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(6)悲歌集 — 2006年05月26日
第6日 今年前半の最もタイヘンだった 新作「悲歌集」演奏会
今年の2月14日(奇しくもバレンタイン・デーですね)、野平一郎さん作曲・林望さん作詞の「悲歌集」を世界初演しました(東京の津田ホールの委嘱作品)。
あのイギリス関連や食のエッセイ集で人気の作家、リンボウ先生こと林望(はやしのぞむ)さんの台本に今をときめく作曲家、ピアニストの野平一郎さんが曲をつけました。これは男と女の愛の物語・・・・・話題のメゾソプラノ林美智子さん、テノール望月哲也さん、フルート佐久間由美子さんという超豪華メンバーでした。
ほぼ全編ギターで伴奏される「ミニ・オペラ」で、チャーミングなソロの間奏曲も出てきます。普通、現代音楽の演奏会って燃えないものですが・・・・会場は不思議な雰囲気に包まれました。バレンタイン・デーに「別れ」をテーマにした作品をという演出。そして45分を占める長さ。作品は緊張感の高い劇的な部分や神秘的な部分、美しく響く部分、様々なプリズムを通して「愛」を浮かび上がらせるものです。
野平さんとリンボウ先生(林望さん)のコラボレーションはかつての武満徹さんと谷川俊太郎さんの関係を思いださせるものがあります。こういう作品の初演に関われた
こと、本当に幸せでした。
バレンタインに演奏会をやるっていうのは良いことですね。本番の後、チョコレート、ちょうど10個ゲットしました。女性ファンの皆さんありがとうございます!(この日の収穫だけは、大萩康司くんに勝ったらしいゾ!)
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(7)表現 — 2006年05月27日
19世紀ギターの名器
”ガエターノ・ガダニーニ(1829)”
第7日 表現
最後に少し真面目なお話しを。
今回の演奏会では使用する予定はありませんが、19世紀ギターについてです。最近では比較的多くのギタリストによって演奏されることの多い19世紀ギターも、つい15年ほど前に私が演奏会で取り上げたときは随分批判的なご意見も多く頂きました。
25年ほど前ですが、19世紀に作られたギターを初めて弾いた時のショックは大変なものでした。その時代に書かれた楽譜が、まるで今書かれたように新鮮に聴こえたのを覚えています。10年程経って、やっと理想的な状態のラコート(1840年作)と出会いました。僕にとって新しい表現のための道具との出会いでした。今のギターとはまるで発音が違うのでタッチを研究し舞台で弾けるようにするのにさらに数年がかかりました。そして14〜5年前から録音や舞台で使い出しました。初めてですから嬉しくて仕方ありません!
ところが最初から猛烈な周囲の反対がありました。信頼していたギター製作家の河野賢さん(今は亡くなられましたが、桜井正毅さんの師匠で世界的な名工)に、「あんな古いもので音楽をするなんて時代錯誤だね。僕たちが一所懸命作ってきた現代の表現力のあるギターの音をぶち壊す行為だよ!」とまで言われました。
その時にこう返事しました。「先生、僕たち演奏家は役者です。楽器はその衣装です。江戸時代に作られた芝居を演じるのに着物を着てどこがいけないんでしょうか?時代劇を現代の背広姿で演じている方が不自然でしょう?」河野さんはしばらく黙っていましたが突然「アハハ、君そりゃ屁理屈だろ〜!」と笑い出しました。でも以後、一切僕の19世紀ギターのことを悪く言わなくなった。このときの理屈は屁じゃなかったと今でも思っています。
表現は、表現する人とそれを受けとる人がいて初めて成立します。(そうでないという意見もあるのですが、ここでは音楽を表現するってどういうことかを話したいので・・・)で、ここで難しいのは表現「力」です。相手に伝える力の強い人を「表現力がある」弱い人を「表現力がない」という言い方をします。しかし受けとる人のアンテナの感度が悪かったり、許容範囲が狭かったらどうしましょう?非常に「表現力がある」人も、「表現力がない」と見なされてしまいます。
河野さんとは表現力(この場合は「説得力」かな?)でその場では勝ったのですが、今日もなお19世紀ギターを使って聴衆を「納得」させるのに躍起になっています。演奏会じゃ、音がすべて。言葉は使えないからねぇ・・・。
一週間お付き合い頂いてありがとうございました。
それでは、皆様、「せんくら」の会場でお会いしましょう!
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