せんくら・うた劇場の「オツベルと象」

2018.09.10| 吉川和夫

今年の「せんくら・うた劇場」は、中村優子さん(ソプラノ)、髙山圭子さん(アルト)、原田博之さん(テノール)といういつものメンバーに、バリトン歌手の武田直之さんが加わってくださいます。山形ご出身、現在はオペラや規模の大きな宗教音楽などのソリストなどで大活躍中の武田さんの参加はとても頼もしく、わくわくします。

 

さらに、歌唱陣を支える楽士としては、いつもの鉄壁な倉戸テルさんのピアノに加え、仙台フィルから西沢澄博さん(オーボエ)百々暁子さん(ヴィオラ)助川龍さん(コントラバス)、いずれも2015年の初演で素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくださった方々が参加してくださいます。すてきな音楽仲間が集う「せんくら・うた劇場」第5回記念の豪華版!

 

さらにさらに!今年もアトリエ・コパンの美術作品とコラボします。

 

アトリエ・コパンは、石巻で新妻健悦さん、新妻悦子さんご夫妻が主宰していらっしゃる民間の造形教育研究所。たくさんの子どもたちが、新妻先生から出されるテーマに添って、上手とか下手とかいうモノサシは関係のない、抽象的で自由な発想が溢れた美術作品を創っています。

 

 


2017年せんくら・うた劇場に寄せられたアトリエ・コパンの作品

 

ブログの第1回にも書いたように、「せんくら・うた劇場」では、舞台装置や照明、衣装といった要素は簡略化しますが、ここでなければできないことをしたいと考え、第2回目の「うた劇場」から、アトリエ・コパンの美術作品とのコラボが始まりました。新妻先生が、膨大な記録画像から内容に合いそうなものを選んでくださり、スライドで投影します。ご来場の皆様には、賢治のお話、音楽とともに、アトリエ・コパンの美術作品を楽しんでいただけたらと思います。

 

2018年せんくら、公演番号71番 せんくら・うた劇場 「オツベルと象」は、9月30日(日)16時45分~17時30分 エルパーク仙台/ギャラリーホールで開催です。ぜひお越しください。

 

吉川和夫(せんくら・うた劇場)

宮沢賢治と「オツベルと象」

2018.09.09| 吉川和夫

宮沢賢治の「オツベルと象」。まず、とにかく楽しく面白い作品です!賢治さんがこの作品に注いだテンポ感は、とてもすばらしい。とりわけ「第五日曜」で象たちが押し寄せるシーン。賢治さんはその場面を細かくスペクタクルに書き込んでいて凄い迫力!作曲者としては、作品全体にみなぎる文章の勢いを音楽が削ぐことにならないよう、苦心しました。

 

ところで、読み進めていくと、意味深長な細部と出会うことになります。赤衣の童子とは何者?象たちは沙羅樹の下で碁を打っている?象が碁を?そもそもなぜ白象?ペンキを塗ったのではないんですよね?古い仏教説話かと思えば、白象が祈るのは「サンタマリア」。考えるといろいろわからなくなるのは、賢治さんの作品ではいつものことなのですが、わからないからかえって面白い。さすがです。

 

さて、そんな楽しい謎に囲まれながら、作曲をするために「オツベルと象」と向いあっていたわけですが、このお話の意味は、日に日に切迫してくるように思えてならないのです。弱いものいじめをする者には必ず罰があたるぞという教訓?現実には起こりえない荒唐無稽な寓話?ブラック企業に搾取される悲哀?それはそうなのでしょうが、それだけとは思えません。私たち自身、「ここにいていいよ」と言われて気をよくして、そんなものいらないなぁと思いながらも「持ってみろ、なかなかいいぞ」と言われ、しぶしぶ持ってみると「なかなかいいね」と思ったりしていないだろうか。「すまないが」の言いなりになっているうちに、気がつくと自由も平和も奪われていないでしょうか。突き詰めれば、私たちが純朴で愚鈍な象でいたために、フクシマの悲劇は起こったのではないか…。賢治さんは、象に見立てて人間の弱い姿を描いたのではないかとさえ思えるのです。

 

合唱劇「オツベルと象」は、合唱団じゃがいも委嘱作品として2015年に作曲。山形と東京で初演されました。今回は、少し編集し直して「せんくら・うた劇場」版での演奏です。

 

次回は、「せんくら・うた劇場」第5回の演奏について、お話しましょう。

 


合唱団じゃがいもによる合唱劇「オツベルと象」舞台写真

 

吉川和夫(せんくら・うた劇場)

「せんくら・うた劇場」って?

2018.09.08| 吉川和夫

こんにちは!作曲の吉川和夫です。

 

「せんくら・うた劇場」は、おかげさまで毎年大変ご好評をいただいています。そして、今年はなんと!5回目を迎えることになりました!本当にありがたいことです。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

「せんくら・うた劇場」って何?という方もたくさんいらっしゃると思いますので、そのあたりのお話から、私の担当ブログを始めましょう。

 

音楽のジャンルの中には、詩や文学と結びついて、音楽とともにことばの美しさや情感を表現するものもあります。たとえば歌曲や合唱曲。それから、もっと大がかりになって、文学だけでなく美術や演劇とも結びついていくのがオペラですね。

 

ひとりの歌い手がヒーローやヒロインを歌い演じ、合唱が群衆となってドラマを盛り立てるオペラと違い、「せんくら・うた劇場」では、ひとりひとりの歌い手が登場人物の役を担うとともに、古代ギリシャ劇のコロスのように、劇の背景や心情を歌い語り、物語を牽引します。

 

ちょっと面倒な表現になりましたので、別の言い方をしてみましょう。小さなお子さんに物語の「読み聞かせ」ということをしますよね。「せんくら・うた劇場」は、お子さんだけでなく大人にも向けられた音楽と物語を「歌い聞かせる作品」と考えていただけるとわかりやすいかなと思います。

 

このような音楽スタイルを、合唱劇、あるいは合唱オペラなどと呼んでいます。日本では、指揮者の鈴木義孝さん率いる山形の合唱団じゃがいもや、栗山文昭さん率いる栗友会の合唱団が、合唱劇に積極的に取り組んでいます。林光さん、寺嶋陸也さん、萩京子さんといった作曲家が、合唱劇や合唱オペラを作曲してきました。長年にわたって、多くの宮澤賢治の作品を合唱劇として上演してきた合唱団じゃがいもは、昨年第27回イーハトーブ賞を受賞しました。舞台装置や照明、衣装といった要素を簡略化するのも合唱劇、合唱オペラの特徴です。演技も最小限に止め、あくまでも音楽とことばの力を中心に、物語をお客さまに伝えていきます。そのため、演奏者と聴衆の一体感は、かえって色濃く現れると思います。「歌い聞かせる作品」として、「せんくら・うた劇場」を楽しんで頂けたら幸いです。

 

次回は、今年とりあげる「オツベルと象」という作品について、お話しましょう。

 


昨年度せんくら・うた劇場のリハーサル風景

 

吉川和夫(せんくら・うた劇場)

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