岡村喬夫(3)「ああ、金集め」

2008.06.17| 岡村喬生

新国際版「マダマ バタフライ」世界プレミア、2009年日伊両国公演。
プッチーニフェステイヴァル財団とNPOみんなのオペラの共同公演だが、我々NPOの負担は1億5000万円。イタリア側とは、指揮者と、ピンカートン/テナー、シャープレス/バリトン、ケート/ソプラノの3役の全6回のギャラ、東京とトーレ・デル・ラーゴ(プッチーニフェステイヴァルの公演会場)での約1ヶ月ずつの稽古と公演のための滞在費、それに日伊間の国際航空費用、東京に於ける5日間のオーデイションのイタリア側4名の審査員の全費用、トーレ・デル・ラーゴの会場、稽古場、オーケストラ、合唱団、舞台などの裏方の全費用の負担、というのが我々の合意内容だった。米人3役のダブルキャスト6名はイタリア側が向こうで選考して来日し、あとの全日本人役は全て国際公募オーデイションで、東京で日伊合計8名の審査員で選出。東京オーチャードホールでの公開総練習2回と本公演2回でイタリア公演の為のシングルキャストを選び、イタリアで4回の公演をおこなうのである。1億5000万円には総勢46名のギャラ、渡航費、滞在費、大小道具を入れた衣裳の4トンコンテナー2台のカーゴ代である。イタリア側の負担が少ないじゃないか、という話題はここではよそう。向こうはオペラ宗主国で、プッチーニオペラの世界の中心。そこで上演するだけで大変な名誉なのだ。
オペラの資金集めは初めての体験である。これまではお金をもらって歌うだけだった。それも10万、100万ではない。1億5000万という見たこともない大金。それは大企業のトップにお願いするしかない。お願いの武器は、世界初の日本誤認訂正をしての上演。こういう日本にとって又とはないチャンスだから、誰かが必ず意気に感じで出してくれるだろう。これが我々チームの計算だった。チームとは、愛知和男・衆議院議員、元・防衛庁/環境庁長官。愛知先生は国会コーラスでお知り合いになった。僕はこの合唱団の指揮者だ。先生にはNPOの特別顧問になっていただいた。そして鷲尾悦也・NPOみんなのオペラ理事長。それに博報堂の泊・常務、白川・宣伝部長、大野・宣伝部員。

彼ら影響力の或る方々が味方についてくれねば、一歌うたいには不可能な仕事だ。そしてすぐに企業訪問が始まった。オペラ歌手は夜遅くまで歌いそれから食事をして寝るわけだから朝に弱い。僕が起きるのは朝9時である。企業のトップとのアポは朝9時頃が多い。眠い目をこすって愛知先生たちのお供をして、僕は「マダム バタフライ」の原作の間違いを説明し、この上演が、オペラだけでなく文化を輸入ばかりしてきて、経済大国のイメージばかりが強い日本の文化度を世界に示す絶好のチャンスであることを力説し、援助をお願いする。大阪にも2度行った。どなたも親切に耳を傾けてくれた。しかし金はなかなか出ない。意義は認めても、金を出すにはその見返りがいるのであろう。どなたも自分のポケットマネーではない、会社の金なのだ。目に見える見返りがなければ、出す理由の説明が部下につかないのではないのだろう。

東京公演は来年5月。オーチャードホールは好意で4日間をあけて待っていてくれる。どうしても3月末までには公演をやるかやらないかを決定せねばならない。チームの方々の顔色は、日が進むにしたがい曇っていった。幾つかの申し出はあったが、1.5億には遠く及ばない。慣れない金集めにくたくたに僕はなった。体力が続かないのではない。金集めには特殊の能力がいるようで、それが僕には生まれつき備わっていない、ということが解るにつれ、精神的に参ってきたのである。食事もろくろく喉に通らなくなった。そして4月1日のチームの会議で、皆は涙を飲んで、来年のプロジェクトの延期を決めざるを得なくなったのである!

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