「パリャーソ」(ポルトガル語で道化師の意)という名の「出前ライブユニット」(年間40〜50本くらいやっています。ピアノがあればどこでも行きます)を、ハーモニカ奏者の続木力さんとやりだしてから早6年目になる。まずは、その「パリャーソ」のツァーから。
7月18日(水)神戸・三宮の旧知のカフェ、「MOKUBA'S TAVERN 」 約40名でいっぱいになるこのカフェだが、早くからお客様が集まりだし、すでに満員御礼状態だけど、なんとしても聴きたいという方が、お店へ上がる入り口の階段にまでいっぱい!音は聞こえど姿は見られず状態。恐縮だけどその気持ちがうれしい。ほぼ定刻に演奏スタート。鳴り方のまろやかな、キンキンしない小ぶりのアップライトピアノとブルースハープの相性はとてもいい。今日も快調にボブ・ディランの「風に吹かれて」からはじめる。オリジナルの「六月のうた」等をへて、ゲストは地元神戸出身の歌姫、深川和美さん。のびのある艶やかな声で私が中也の詩につけた「湖上」「シェルブールの雨傘」などを演奏。神戸をはじめ関西圏のお客様は、恥ずかしがらずに、「か
け声」できちっと応援してくれるので気持ちがいい。「イエッ!」「ヒューッ」等1曲終わるごとに声をとばしてもらえると、ライブもどんどんヒートアップ。
ノリノリのうちにライブは終わるが、ここからの「アフターアワーズ」が旅の醍醐味。酒と会話とハプニング!?なんと今宵は指揮者の佐渡裕さんがお客様でいらしてくださっていて、力さんとの「縦笛(リコーダー)談義」から突如セッションが始まった。しかもアニメソングのオンパレード!「鉄腕アトム」「宇宙戦艦ヤマト」「アタックナンバー1」次から次へととびだす、我々世代(50年代後半から60年代前半生まれ)の名曲に、残っていた人たちは大感激&すんごく得した気分。きけばマエストロは少年時から「縦笛手放さない少年」で、いろんな曲を耳コピで吹きまくっていたとのこと。どおりで、イントロからオブリのフレーズから完璧なはずや!マエストロ、こんど我々のステージ
にとびいってください!!
7月19日(木)今日はやはり神戸の「エレガーノ甲南」という介護付き老人ホームでの演奏会。入り口を入ってびっくり!なんと高級ホテルのようなおちついた、かつ豪華なたたずまい。働くスタッフもきびきびとしながらも品がある。演奏会場はまるでダンスホール。皆様との距離をおかずに、より近くで演奏者の気を感じていただこうと、舞台を使わずフロアに直接ステージセッティング。今日のゲストはパーカッションの山村誠一。スティールパンの名手だ。さてさて、人生の酸いも甘いも噛み分けた方々へ我々の音楽がどう届くのか。
パーカッションの参加もあり、リハ時に「ご年配の方には少し刺激が強いのでは」とやんわりクレームがついた曲もあったが、一日の演奏、静かな曲ばかりでは構成できないし、ジャズをベースとした「パリャーソ」の名がすたる。「まりと殿様」という童謡をリズムを強調してジャズアレンジしたかっとばし系の曲もやってみる。
最初からノリノリで踊っているご婦人(どうやら認知症の方らしいのですが)瞑目して聞き入っているが、時折りカッと目をあけこちらを見入る、まるで仙人のような紳士(あとできいたところによると、引退された能狂言の重要な役者さんだそうです。今でも教えを乞う人がたえないとのこと)曲によって快、不快の念をストレートに表情にだされる方、拍手をふくめまったくなんの反応も示されない方。いろいろな方がいろいろな反応をされることに、最初少しとまどってしまうが、だんだんといつもと変わらないノリノリの演奏になっていく我々に、聴いてくださる方々が、徐々にひきこまれていくのを肌で感じる。
あたたかいアンコールの拍手も頂き、ほっとひといきついている私のもとへ、「あなたたちすごくよかったよ、CDあるの、買いますよ」と声をかけてくださった方に涙がでる。案ずるより産むが易し。つたない言葉で自分たちの音楽を言葉で解説するより、結局一つの音のほうがどれだけの説得力があることか。
7月20日(金)瀬戸大橋をこえて、四国の地へ。わーいうどんだ、うどんを食うぞ〜。その前に今日は、「坂出市立中央小学校」で学校公演。1年生から6年生までの全校生徒、それに先生、父兄の方々。大勢の熱気につつまれる体育館に冷房装置がないと、きゅうきょ「氷柱」をピアノの前にセットしてくださる。この心づかいがうれしい。
「なにを聴かせてくれるのかな わくわく」と見守るつぶらな瞳でいっぱい。「ぼくらのやってるのはジャズという音楽で、こういうメロディとコードネームが書かれている紙一枚で、演奏するみんながルールを作って自由にやるんだよ」懸命に力説する私(写真参照)だが、やはり言葉より、演奏の一音にまさるものはなし。♪ふわあ〜とハーモニカの最初の一吹きがみんなの気をあっというまに集める。誰でも知ってる曲をやったほうがいいかなと、「となりのトトロ」を演奏するが、「こども向け」のつもりで「わかりやすく」なんて考えても、そんなのは魂がはいってなくて、結局のところは、いつもとかわらないばりばりアドリブ全開演奏。でも、なにかを感じてくれたかな。きっとそう思う。
途中「質問コーナー」を作ってみた。最初、もじもじしていたこどもたちも、一人が思いきって手をあげると、その後はどんどん。「好きな歯はどれですか?」「へっ?歯 歯ですか、、、考えたことなかったなあ みんなまだ乳歯のほうが多い?歯は大切にしようね」ありゃりゃ答えになってないか。でも、こんなおもしろい質問もこどもならでは。
「一番好きな曲はなんですか?」「1曲や2曲じゃあ決められない 100曲くらい 言っていい?」楽しいやりとりが続く。続木力さんの実家がパン屋さんで(京都、進々堂さんです)当初、立派なパン職人になるべくフランスへ渡ったのだが、日本に帰ってきた時には「立派なハーモニカ演奏家」になっていたという話がうけまくる。なにか、これだ!
というものを見つけられるといいね、みんな。おじさんたちは応援してるよ!がんばれ〜
7月20日(金)この日の午前中、私は調子にのって、地元の「飯野山」通称・讃岐富士421メートルに登山しました。登山家の友人に言わせると、「それは登山とはいわん、分類上それは「登丘」である」と言われてしまいましたが、なかなかどおしてけっこうきつかったです。日頃の運動不足もありますが、、、汗だくになって降りてきて、連れていかれたのはなんとおそば屋さん!えーっ讃岐でそば!!もちろん初体験でしたが、おいしいおそばを頂き、体力も回復。さて、夜のライブはその「飯野山」の麓に位置する、丸亀・88STAGE 内「布木紙楽土」(ぬのきしらくど)にて。ここは家具とインテリア関連のお店です。音楽ライブもよくされていて、音響もすばらしいのです。昨年のクリスマスに父と朗読とピアノのコンサートを開催して頂いた折に、こんどはぜひ「パリャーソ」でと私が切望し、それがかないました。
お客様は思い思いにいろいろな形のソファや椅子(でも、これは実は販売されている商品群!)に座ってゆったりとくつろいで聴いてくださいます。最前列には妊婦さん(予定日は来月だそう)が気持ちよさそうに。なんか我々の激しい音楽で産気づいてしまったらどうしよう、と余計な心配もしてしまうのですが、終わって彼女のほうから話しかけてきてくれて「リズムの激しい曲だと、お腹でぴょんぴょん動いてすごくノッてるんですよ」とニコッと一言。お腹のお子さんは、どうやらバラード系よりビートのきいた曲のほうを気にいったようだ。そりゃあそうだよなあ。これから、こんなきびしい世の中に出てきて、やっていくんだものなあ。やわじゃあ、やってられんわな。がんばれ〜 なにかつらいことがあっても君にはいつも音楽がある。いつの日か「あれ?この音楽なんか懐かしい。ずーっと昔どこかで聴いたような気がする」と思ったらそれは「パリャーソ」の音楽だよ、きっと。
7月28(土) 今日は築地のブディストホールで「築地JAZZ寄席」なる大イベント。で、13時から22時まで、私は大車輪の活躍。フランスからやってきた、アルトサックスの仲野麻紀さん率いる「Ky」との共演、先日の深川和美さんとのデュオ、私自身のカルテット、一日中いろいろなセットでほとんどステージに出ずっぱり状態!決して自分で志願したわけではないのだが、こちらの要望とプロデューサーからの依頼をまとめていたら、このような一日になってしまった。あらら〜
そんなエネルギッシュ一日だが、なんといっても本日のハイライトは、落語家の林家彦いち師匠との「セッション」噺とジャズ。決して伴奏にならずに、でもコトバをきかせるのは当たり前だし、どうしよう、と考えてると「おもいっきりきてくださいね!どんなになるかわからないし、とにかく楽しくやりましょう!」師匠の一言でセッションは始まった。
まずは出囃子ならぬ「出ジャズ」から。武闘派といわれる師匠に「ロッキーのテーマ」でがつんとご登場願う。そして、いきなりの古典 の名作「寿限無」が「名前がついたあたりからやります」の一言で始まる。山下洋輔さん流に「めけけけけけけ ちょぱっ ずごがっ らぺろさ ぴきゃろん すぴぴぴん」とこんがらがりつつも、はじけてしまう。
「おもしろい」を連発する師匠。こんどは師匠のオリジナル新作「停電でとまった電車内でサラリーマン、主婦、パンクにいちゃんたちの織りなすアホな騒ぎ」の噺。これは、語りの間合いのうまさにひきこまれて、思わずピアノを弾く手がとまってしまう。抜群のリズム感とタメ方だ。客席でうちの息子の大爆笑が聞こえる。ラストは「車やさんの噺」(タイトルきいたのですが、忘れました、、、)アルトサックスの宮野裕司さんに飛び入りしていただいて、3人でのセッションとなる。
ブルース一本(1曲)でいてまえ〜で、演奏がエキサイトするとコトバが聞き取りにくくなってしまうのだが、どうしても噺のもりあがりで、こちらもどんどんもりあがっていってしまう。夢中になって終わって、しばらく放心状態。
こちらは冷や汗ものの企画ではあったが、師匠「いやあ、おもしろかった!またやりましょう。他の噺家さんとやっちゃだめですよ、これ。 ぼくとですよ必ず」の一言を残して、次の現場へ。
昔から落語とジャズの親近性が言われてきたが、いきなりの「セッション」で、がつんと体感させていただきました。間合いとアドリブ。
深い世界だなあ。もっと古典を勉強して、次にそなえようっと。
7月30日(月)大雨の関越道を一路軽井沢へ。そう、私の父は自他ともに認める、筋金入りの「雨男」なのです。今日も見事にやってくれました。あまりの豪雨で前を行くトラックがまるで散水車のように見える。なんとか予定時刻に、軽井沢大賀ホール到着。父、俊太郎の朗読と私のピアノ、ゲストにチェロの溝口肇さんをお迎えして、詩と音楽の間に「朝のリレー」コンサート。
軽井沢から車で約40分位北にある、北軽井沢「大学村」は谷川家の第二の故郷。こどもの頃は必ず8月の丸一ヶ月を家族全員ここですごしていた。やはり御代田に別荘をお持ちだった、武満徹さん家族とは、お互いに遊びにいったりきたり。武満さん(大の虎キチ)とキャッチボールしたピアニストなんて、世の中広しといえどもオレだけだ(大自慢!)
「朝のリレー」の朗読で幕開けしたコンサートは、まずは朗読をソロでたっぷりときかせたのちに、トークコーナーへ。改まってステージ上で自分の父親とまじめに話すのも変な感じであるが、途中から溝口さんも交えて、夏休みの過ごし方の話しなどをする。そして俊太郎からのリクエストのあった「からたちの花」と「埴生の宿」を溝口さんとデュオで。休憩をはさんで二部はまずは私のソロ。「Blackbird」「Ticket to ride」等ビートルズナンバー。再び溝口さんにご登場頂いて「We're all alone」「She」そして名曲「世界の車窓から」なんと7000回をこえるオンエアだそうで、誰しもこの曲は一度ならずとも耳にしているはず。
そして最後に「旅」の連作詩で親子セッションをして、この日のコンサートは無事終了。大雨にもかかわらず東京から、中には四日市!からいらしてくださった方も。本当に皆様ご来場ありがとうございました。サイン会にも大勢の方が列を作ってくださって感激でした。
さて、このあと故郷軽井沢で私はうかれて飲み過ぎてしまうのであった、、、詳細は、ぼぼ日の日記に掲載されています。
http://www.1101.com/cgi-bin/photolive.cgi?p=070731karuizawa&s=62&ob
こうして私たちは今日も旅を続けます。「まったく家に帰らないんですか?こどもさんたち、お父さんの顔忘れちゃうのでは」「外食ばかりでだいじょうぶ?」よくきかれるのですが、どうかご心配なく。私は演奏と作曲の二足のわらじを履く身。ちゃんと家に籠もって作曲している期間もあります。スケジュールの組み方はほんとうに難しいです。一人孤独で曲作りも、みなでわいわい演奏も、どちらも私にとって大切なこと。どんな風に一年のスケジュール帳を埋めていくかは、経験がものをいうし、バランスをとる手腕が問われます。
さて、いよいよ「せんくら2007」もあと二ヶ月で開幕を迎えます。今回は「あんさんぶる であるとあるで」主宰のクラリネットの草刈麻紀さんにお誘いをうけました。一コマは、谷川親子チームと「であるとあるで」の組曲「家族の肖像」を叙情豊かにお届けいたします。もう一コマは、きっとこどもたちが大勢参加してくれると思います。俊太郎の「ことばあそびうた」をはじめ、くすっと笑える詩、大笑いの詩、こわ〜い詩、いろいろとびだします。音楽もそのあふれでるコトバの数々に軽妙にからんでいきます。ご期待ください。うれしいことに、2コマとも前売り完売ということです。身がひきしまります。このところ共演も多く、息のあう「あんさんぶる であるとあるで」チームと俊太郎の朗読、私のピアノの織りなすアンサンブルを、どうか心ゆくまでお楽しみいただければ幸いです。それでは10月に仙台でお会いしましょう!